拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

『私がリュシエンヌの看病をしますから安心して下さい』

 私の手をぎゅっと握り締める男。

『……やめてください、ここはどこですか、私のメイドと護衛をどこにやったのですか』

『リュシエンヌのメイド達は安全な場所で眠っている。少し大人しくしてもらう必要があったから、もうすぐ解放しますよ』


 何か話をしてこの状態を引き伸ばさなくてはいけないわ。手を離して欲しいけれど、手足を縛られた状態で私は身動きが取れない。これ以上触れられたくない。

 もしこれ以上があるときは……解いてくれるのかしら……その時が逃げるチャンスなの? でも私の様などこにでもいる令嬢が騎士の力に敵うわけがない。

 ここはきっと騎士団内部で間違いない。倉庫のような所。大きな声を出して騒ぎを起こしたらレイ様の責任問題になってしまうかもしれません。だってこの方レイ様の部下だもの。

 子爵令嬢がさっきからにやにやとしながら私の動向を窺っているわ。普通じゃないとは思っていたけれど、彼女は異常者だわ。

 子爵令嬢が伯爵令嬢に向かって暴言を吐いたり、公爵家のレイ様を悪く言ったり、騎士団内部でこのような事をするなんて……異常なまでの副団長様への執着、他の令嬢への嫌がらせ。この事が公になると一番困るのはご自分なのに……ご家族にも迷惑が掛かる……って。あぁ……私もそうね。



 このままこの男に手を出されてしまったら私も全てを失う。

 家族もレイ様も……


 レイ様ごめんなさい。こんな事が起きるなら子爵令嬢の事、この男の事をもっと警戒するべきでしたわ。練習の見学は最後だと思ってスルーした私が悪いのですわ。



 レイ様、私がこの男に手を出されたら悲しい?

 レイ様、私と結婚の話がなくなったら他の令嬢と結婚するの?


 私はレイ様じゃなきゃ嫌なの。私の初めても終わりもレイ様が良い。


 こんな男に手を出されるのなら死んだ方が良い──


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