拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

嫌なの


『手を離してください。わたくしはグレイソン様の婚約者ですわよ? もしこんな事が、』
『ですからリュシエンヌを私のものにしてしまいます。隊長より私の方が年齢的に合うでしょうし大事にしますよ』


 この男も正気じゃ無い。男が手にキスを落としてきた。両手を縛られているから抵抗が出来ない。やめて下さい。って抵抗はしたけれど、身体が言う事を聞かない。怖い。怖い。怖い。

 優しく力を入れられているようだけど男の力には敵わないわ。

『リュシエンヌ……』

 名前を呼ばれ椅子の前に膝をつき、胸に顔を埋められた。

 鳥肌がブワッと立った。こんな事なら気を失っていた方が良かった。この男に触れられるくらいなら……

 でも泣きたくない。ここで泣いたら負けた気がするもの。きっと子爵令嬢は泣き顔を見て勝ち誇るし喜ぶ。

 私はこの#女__子爵令嬢__#を絶対に絶対に許さない。

 レイ様と騎士団を裏切ったこの男を許さないわ。

 男が埋めてくる胸元が気持ち悪くて、やめてほしいと言うけれどガッチリホールドされてしまって身動きが取れない……


 ここまでかもしれない。レイ様に会わせる顔が、ない。



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