拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
食事を終えたので、湯浴みをする事になった。ハンナにリュシエンヌを頼んだ。一緒に寝るだけだ。
「レイ様お待たせしました」
「いや、そんなに待って、」
ガウンを羽織るリュシエンヌの姿……気のせいか薄着のような?
「どうされましたか?」
……どうされたって。とにかく目を瞑る。見ていいものなのか、ダメなのか……思考能力が……
「レイ様?」
リュシエンヌの顔が近くにあった。風呂上がりのリュシエンヌはいい香りがした。
「リュシエンヌ」
「ハイ」
緊張してるよな……一緒に寝るだけだ。ベッドは広い。大丈夫だ。
「……寝るか?」
しゅんと落ち込むリュシエンヌ。な、どうしたんだ!
「リュシエンヌ、どうした? どこか辛いのか?」
辛そうな顔をしている。
「胸が……苦しいですわ」
「な、医者を呼ぶか?」
今日は大変な日だったから急に辛いことを思い出したのかもしれない。ベルを手に取ろうとしたら、その手を阻まれてどきりとする。お互い夜着だから……
「違うのです。レイ様は私が……女性として見られませんか?」
「……何のことだ?」
「はしたなくも……レイ様にアピールをしているのですが……その、」
理性よ……
「……婚前だが」
婚前交渉はダメではない。婚約をしている時点で成立するから。しかし……ダメだろ……ダメじゃないのか?
「今日の事は忘れてレイ様との幸せな思い出に塗り替えたくて……」
理性が自ら手を振っている。