拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

「旦那様! 大変でございます」

 執事が慌てて執務室へとやってきた。珍しい事があるもんだ。いつも冷静な男なのに。なんだ? と要件を聞く。

「ん? 第二王子からの使者が来た? 何のために?」

「手紙を持ってこられたようです」

「そうか。今行くから応接室にお通ししてくれ」

 何の用だろうか??
 

「お待たせいたしました」

 王宮から来た使者殿に挨拶をした。


「モルヴァン伯爵。急な訪問をお許しください」

「いえ、構いませんよ。ところで急用とはどういった事でしょうか?」

「第二王子エリック殿下からお手紙を預かってまいりました。返事は急ぎではないとの事です」

 これまた立派な封筒だ。煌びやかで手に取るのが憚れるような怖さがある……

 使者はそのままじっとこちらを見てくる。今この煌びやかな手紙を開けと言うことか? 返事は急がないんじゃなかったのか……まぁ、いいか。

「失礼して……」

 緊張しながら手紙を開く。なぜ第二王子から私宛に手紙が届くのだろうか……リュシエンヌが王宮に呼び出され、婚約破棄をされた時に第二王子がいた……と言うことを聞いてから困惑している。一貴族の婚約破棄に友人だからといえ、王子が立会いなんてするか? 今まで面識もない。
 
 そして婚約を破棄をした側の友人だという第二王子が、リュシエンヌを友人だと言って手紙を送ってきたり、さっぱり意味がわからん……リュシエンヌも同じくそう思っているようだし。

 そして手紙を開き私は固まった。

「……婚約の打診? なぜうちの娘に……」

「陛下もご存じだそうです。一度お話をしたいとエリック殿下が申しておりました。返事は急ぎではありませんが、よくお考えくださいませ」

 使者は頭を下げて、出て行った。







 


「いやいやいやいや! 意味がわからない」
「嘘だろっ!」
「第二王子と?!」
「いや、想像もつかない! 断るしかない! でもリュシエンヌがどう思っているか確認しないと!」


 応接室のソファの周りを腕を組みながらうろうろとする。

「落ち着かん。リュシエンヌはまだ帰ってこないのか?」
 

 近くにいた執事に声を掛ける。執事も思考が停止していたようでハッと我に帰る。


「本日は坊ちゃまと街にお買い物に行かれました。もうすぐお帰りの時刻になります」


「そうだった……リュシエンヌが帰ってきたらすぐに私の執務室へ来るように伝えてくれ」

「かしこまりました」

 ……何が何だか分からん。考えても仕方がないのでリュシエンヌの帰りを待つことにする。何で今日に限って屋敷に誰もいないんだ!

 
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