拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
「急に雨が降ってきたからどうやって姉様を迎えに行こうかと考えていたんだよ……どうしたの、この傘?」
図書館へ無事着きますとハリスが心配していました。
「騎士様にお借りしたの」
「……何が一人で大丈夫なんだか。姉様はしっかりしていそうで抜けているよね」
ハリスがどんどん成長していますわね。抜けている姉をサポートしてくださいな。
「それでその騎士様の名前は? 借りたものはちゃんと返さなきゃ」
「それがね、お名前をお伺いする前に、行ってしまわれて聞けなかったの……どうしようかしら」
抜けている姉でまた呆れられるわね。
「……借りたままというわけにはいかないけど、そろそろ迎えもくるからとりあえず帰ろうか」
「そうね。そうしましょう」
今度また街に来て、先程の騎士様を探してみようかな。
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「今帰ったのか、急な雨で驚いたね。ようやく止んだか」
お父様とエントランスで会いました。
「お父様、どこかにお出かけですか?」
「あぁ、そのつもりだったんだが急ぎではないから、またの機会にしようと思ってたんだよ。君たちがまだ帰らないから雨で足止めになったのかと心配していた所だよ」
道がぬかるむと馬車は使えなくなりますものね。雨は嫌いではないけれど、それと同時に怖くもなりますわ。
「そうだ、父上に聞いてみたら?」
ハリスがお借りした傘を指さしていました。実は馬車の中でよく見てみると家紋が刺繍されていたのです。黒い傘に黒の刺繍でしたので目を凝らさないと分からない程でしたわ。
「お父様、今日──」
お話をすると傘を預かって調べてくださるそうです。良かったですわ……大きな傘はきっと高価なものだと思いました。お顔を拝見しようと思ったのですが、帽子をかぶっていて、しかも雨で暗くて良く見えなかったのです。
「せめて何かヒントとかないのかな、もう少し情報が欲しい所だ」
……お父様も呆れていますわね。
「あ! とても身長が高くて鍛えられた体躯でしたわ! ハスキーな声も覚えています」
「……そうかい。なんとか探してみるよ」
なんだかごめんなさい。