拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

なかった事にはなりませんわね


「この度はアルバートの勝手な行動でご迷惑をおかけしました」

 コリンズ伯爵とアルバート様が翌日我が家に訪れました。応接室に入るなり開口一番伯爵様が頭を下げました。伯爵様だけが頭を下げているのを見て、アルバート様は悪くないと。思っている様子でしたわ。お母様が扇で顔を隠したところを見ると、恐らく不快だと思っているのでしょうね。


「コリンズ伯爵、アルバート殿、立ち話はなんですから座りませんか?」

 お父様とお母様、私も着席をしました。伯爵は立っていたのにアルバート様は……先に座りました。お父様とお母様は顔を見合わせていますわ。


「コリンズ伯爵もお座りください」

 ソファに座った所でお茶が出されました。最高級のダージリンに少しブランデーが入っているようで、とてもいい香りがしますわね。気分を落ち着かせる演出かしら?

「昨日手紙をもらった件での話だと思うのですが、それでよろしいでしょうか?」

 昨晩コリンズ伯爵から至急の連絡として手紙が届いて、そして今日を迎えましたの。

「はい。昨日うちの息子がリュシエンヌ嬢に……その、言いにくいのですが、」
「婚約破棄を言い渡しました。リュシエンヌは快諾してくれました。そうだよね、リュシエンヌ?」


 伯爵様が言いにくそうにしていますのに、アルバート様はズバリと本題に切り掛かりましたわ。話が早くてよろしいのですが伯爵様が青褪めました。声を掛けられたのでお返事をしなくてはいけませんわね。

「えぇ。分かりました。とお返事をしましたわ。その後両親にも経緯を説明致しました」

 お父様を見ると頷いてくれました。

「コリンズ伯爵、そう言う事だから婚約破棄の手続きをしましょうか。おい、アレを」

 お父様が執事に声をかけると、スッと書類が机の上に置かれた。お待たせしないように既に準備は済ませてありますのね? さすがです、お父様。


「アルバート殿とリュシエンヌが婚約するにあたって、決められていた契約内容を確認しましょうか?」

 ガクッと肩を落とすコリンズ伯爵。

「その件で言いたいことがあります」
「お、おい! アルバート、余計なことを言うな!」

 伯爵様は焦って止めようとしていますが、アルバート様は止まりません。


「そもそもリュシエンヌが、原因で婚約破棄となったのですからこの条件はのめませんね」

 アルバート様が言いました。

「うちの娘が原因とは何故か聞かせてもらうとするか」

 お父様が足を組みました。これは……イライラしている時に見られる行動ですわ! お父様はご機嫌斜めですわ!
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