拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
「いや、すまない。汗をかいた身体で話をすべきではなかったな」
「いえ、わたくしが閣下にお会いしたくて来たのですわ! 練習を拝見させていただきましたがとてもお強いのですね」
「……練習を見ていたのか」
「はい、とても迫力があって驚きました。騎士様たちのおかげでこうして平穏に暮らせるのですもの。感謝しておりますわ」
顔が見れなくてつい下を向いてしまいました。
「すまないがそろそろ休憩が終わる頃だ。傘を(返して)貰うよ。それとそのハンカチも」
私が手に持っていたハンカチを指差す閣下。ギュッと握っていたのでシワになっているのに……
「え? このハンカチですか?」
汗を拭くのかと思い素直に渡しました。
「これは洗って返すよ」
ひょいとハンカチを私の手から取る。
「いいえ、結構ですわ。洗うほどのことではありませんもの。わたくしが勝手に閣下に触れてしまって、」
「令嬢が見知らぬ男の汗を拭いたハンカチを持ち歩くのはどうかと思うぞ。それに今は汗臭いから私に近寄らない方が良い」
そう言われてしまうと、お側にはいけませんわよね。
「モルヴァン嬢、すまないが時間がない。今度ハンカチを返すよ。それじゃ」
「あ、」
「行っちゃった……」
やっぱり急いでらいしたのね。それなのにお話をしてくださったのね。