拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
 〜グレイソン視点〜

 ……なんだあの可愛さは! 私のことが怖くないのか? まじまじとキラキラとした目で私を見てきた。おかげで変な誤解をしそうになったではないか!

 背伸びをして汗を拭う姿……あんな事をされたら……余計に変な汗が出てしまうではないか!

 

「グレイ!」

「ん?」

 私のことを名前で呼ぶ男。同期で令嬢に人気の副隊長レオンだ。

「あんな綺麗な子といつ知り合ったんだ? 紹介してくれよ」

「お前には紹介なんていらないだろう。応援隊の令嬢達がいるじゃないか」

 こいつは未だ未婚(自分のことは棚に上げておく)令嬢が好みそうなキラキラ騎士と呼ばれていたりする。私とは正反対だ。


「あの子達はキャーキャー言っているのが楽しいだけだ。両親も良い加減に結婚しろ。とうるさいからな」

「どこの家もそうだろうよ。二十七となれば親も怒り出すよな……」

 うるさいがすぎると怒りに変わってきて会うたびに説教が始まる……だからなるべく実家には近寄らないようにしている。

「今年こそは相手を見つけたいと思っている。ところでさっきのあの子は誰だ? 見かけない顔だな」

「誰だって良いだろ」

「綺麗な子だったな」

 ……綺麗? 可愛いの間違いじゃないのか? こいつの感覚がよくわからない。


「強面のお前にも臆さず話が出来るなんて肝がすわっているじゃないか。普通の令嬢ならお前の汗なんて怖くて拭けないだろ」

 ……そこまで見てたのか! 確かに強面で図体も大きい私は令嬢から怖がられて近寄りづらいタイプだと思う。あの子はまっすぐ私の目を見て話してくれたんだよな……心地の良い落ち着いた声だった。騎士達に話しかける応援隊の令嬢達とは違う。
 
 たった一本の傘のためにここまで届けにきてくれるなんて真面目な子なんだろうか、それとも借りを作るのが嫌いなタイプなんだろうか? なんにせよ、いや、やめとこう。

 
< 93 / 223 >

この作品をシェア

pagetop