前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 田中が、腰かけていた椅子をくるりと回して、当該人物と目を合わせる。

「ん? あぁ、君は……」

「失礼します。一年一組の蛇ノ目剣です」

「知ってるよ。君は有名だからね。今回の実力テストも全教科満点、ぶっちぎりトップだったらしいじゃないか」

「一般常識レベルの簡単な問題ばかりでしたからね。小学校で習う内容も含まれていましたし、あれで難しいとか言っているやつは、バカですね」

「そうだよなぁそうだよなぁ。日暮、おまえちょっと蛇ノ目くんの爪の垢でも貰おうか?」

「結構です……」

 その場から逃げようにも、田中にがっしりと制服の袖を掴まれて動けない。
 死んだ魚のような目になった公花を横に、田中と剣は学力談義に花を咲かせている。

「蛇ノ目くん、君のクラス担当の花坂先生は、それは誇らしげだったよ……それに比べてうちのクラスは前途多難そうでねぇ。あぁ羨ましいなぁ」

 田中はこちらをチラチラ見ながら、消え入りそうな声で、だが粘着気味にグチグチと愚痴っている。
 私立だけにノルマが厳しいのね――なんて、また他人事のように思いながら、早く説教が終わらないかなと考えていると。

 剣は、三日月みたいに細めた視線を、公花のほうへと流した。
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