前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 作業がひと段落してから、桃子ママがカレーを作って皆に夕食を振る舞った。
 リビングには朗らかな笑い声が満ちている。

 公花は剣とふたりで縁側に出て、並んで腰かけ涼んでいた。
 紫色のグラデーションに染まった空には、一番星が明るく輝いている。

「もう体調は大丈夫なの?」
「ああ……すっかり元通りとはいかないが、普通の人間として生きるには問題ない」

 公花や蛙婆女から吸収した力は、実は一過性のものらしく、そのうちに消えてしまうらしい。御使いといえど霊力を浪費すれば、また消滅の危機に陥ってしまう。
 だから神通力は、なるべく使わずに過ごしていくつもりだという彼の決意を、公花は頷きながら聞いていた。
 剣の表情は吹っ切れたように明るくて――最近、彼の人間味が増したように思うのは、そのせいかもしれなかった。

 ゆったりとした日常が戻ってきて、あの慌ただしい日々は夢だったかのよう。
 前と大きく変わったことといえば、公花が前世の記憶を取り戻したという点なのだが、前世に恋仲だった事実など、冷静になったら気まずいだけだ。

(だって恥ずかしいし、考えると心臓がドキドキして落ち着かないし……)

 過去など関係ない。大切なのは――今なのだ!
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