前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 公花もこのパターンにはすっかり慣れていて、「行ってらっしゃ~い」などと言いながら小さく手を振っている。

 面倒だ。溜め息を隠し、席を立った。

       *

「ごめんね。今しかできないことに、集中したいから――」
 案の定、声をかけてきた女生徒から「好きです、付き合ってください」と告白されるも、シンプル丁寧にお断りして。

 図書室に戻り、引き続き公花の勉強を見てやって――司書から下校を促される頃には、窓から差し込む日差しはオレンジ色になっていた。

 公花と一緒に昇降口の手前の廊下まで来たところで、指を滑らせた振りをして、鞄をわざと取り落とした。

 蓋のロックを外しておいて、中身までぶちまけている自分は非常に滑稽(こっけい)だが、これも必要なことなのだ。

「あっ、鞄を落とした。拾うのを手伝ってくれ」
「はぁ~? また?」

 数日前にも同じことをしたので、呆れた顔をする公花だったが、「指の力なさすぎじゃない?」とぶつぶつ言いながらも、身を屈めて拾いにかかる。素直なやつだ。

 その隙に、公花のロッカーを開けた。
 予想したとおり、靴がぐっしょりと濡れて、汚れている。彼女を妬む輩が、泥まみれにしたのだろう。

(まったく手間のかかる)
 視線に力を込め、神通力で水分を蒸発させ、泥も消し飛ばす。

「剣くん、拾ったよ~。あのさ、剣くんの鞄、蓋の金具が甘くなってるんじゃない?」
< 19 / 134 >

この作品をシェア

pagetop