前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 こちらのお膳立ても知らず、のんきに追いついてきた彼女から、差し出された鞄を受け取った。

「そうか。まだ新しいんだけど、不良品だったかもな」

「もう今さら交換は無理かもねぇ……。あれ? 私の靴、こんなにきれいだったっけ?」

「おい、公花。さっさとしろ。行くぞ」

「? う、うん」

 首を傾げながらも、靴を履き、テテッと後ろをついてくる公花。
 校門を出る頃には、少しの違和感など消え去って、彼女の顔にはのほほんとした笑顔が戻っている。まったく幸せなやつだ。そこがまぁ……微笑ましいと言えば、微笑ましい。

       *

 学園を遠くに見渡せる土手まで一緒に歩いて、住宅路に入るところで別れることにする。

「剣くん、ばいばーい。また明日ね」
「ああ、気をつけて帰れよ」

 彼女の姿が消えると、一台の黒塗りの車が、脇にすっと現れた。

 停車した車から、黒ずくめの服を着た運転手が降りてきて、頭を下げる。

「ご学業、お疲れ様です、剣様」
「いいから、彼女の跡をつけろ」

 運転手が開けたドアから、後部座席に乗り込む。
 ほどなく車が走り出した。

 時間に余裕があるときは、彼女が家の敷居をくぐるまで、こっそりと見送ることにしている。白蛇は元来、慎重な性質なのだ。

 音もなく車が追いついていくと――。
 気にかかっていたとおり、ひとりきりになった公花を尾行している者たちがいた。
< 20 / 134 >

この作品をシェア

pagetop