前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
「おかえりなさいませ、剣様」
「ああ」

 剣は愛想のない返事をひとつ。
 近くにいた使用人に鞄を持たせ、老婆の横をすり抜けて、屋敷の中へと入っていく。

 制服の襟元を緩めながら、和風の内装で趣きのある廊下を進む。
 老婆は少し下がった位置で、一定の距離を守り、しずしずとついてくる。

「ご学業はいかがでしたか?」

「変わりはない」

「お体が辛いようでしたら、お申しつけください。本来あなた様は、庶民に交じって通学などする必要はないのですから」

「……問題ないと言っている」

 剣は、この蛇ノ目家の頂点に立つ当主だ。家族はいない。

 老婆は、蛇ノ目が抱える宗派の、表向きの教祖。
 剣にとっては世話係のようなものだが、愛情はお互い持っていない。

 剣は世間的には未成年、少年の姿であるため、形式的には老婆に扶養されている形になっている。
 老婆の干渉を鬱陶しいと跳ねのけることはできるが、そうする理由もないので、結局は好きにさせているのが実情だ。

 身辺警護のためと言って監視されるのは慣れているが、知られたくないこともある。老婆のすべてお見通しだという態度に、気持ちが苛立った。
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