前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
「それと……日暮、公花、でしたか。妙に目をかけられているご様子ですが……はて、気に入られたのでございますか?」

 剣は足を止め、老婆を振り返った。
 一介の使用人であれば震えあがる氷の視線を、老婆は事もなげに受け止めてくる。

「公花には手を出すな」

 視線に力が入った。老婆の手にあった杖に、ぴしりとヒビが入る。

「……御心のままに」
 老婆の爬虫類を思わせる小さな目が、にんまりと歪んだ。

       *

 地下に作られた一室。

 松明のみの明かりが照らす古来ゆかしき空間は、まつりごとを行う秘密の神殿だ。
 檜の柱に白紫で編んだしめ縄。壁に貼られた札は、裏の仕事で受けた呪詛の数だけ、びっしりと――。

 奥の祭壇には、「ご神体」――いくつもの蛇の抜け殻が安置されていた。

 その上には、刺繍をほどこされたタペストリー。自らの尻尾に噛みつく蛇をモチーフとした家紋が描かれている。

「……そろそろ潮時か」
 蛙に似た老婆、蛙婆女(あばめ)は呟いた。
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