前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 彼女もまた、長い時を生きてきた、蛙を祖とする妖である。
 年齢は二百余年。
 御使いを補佐する「側仕え」として長寿を許されているものの、主との霊格の違いは明確にある。

 蛇のように再生することはできず、時の流れの先に終わりは待っている。
 だが、彼女には刻んだ皺とともに培った知恵があった。

(剣様の記憶が、戻りかけている……)

 神通力を使う御使いが、前世の記憶を取り戻すなど。
 これは、長らく仕えてきた自分が見る限り、初めてのことだった。

 剣に運命づけられた「輪廻の呪い」が不安定になったことは、薄々感じていた。
 神通力の減少自体は、今に始まったことではなく、数十年おきに訪れるサイクルだ。
 そのたびに御使いは脱皮を繰り返し、また新たな肉体となり、充足した霊力を取り戻す。

 神域に達した妖、御使い――摂理によって選ばれ、輪廻の枠を外された、神が定めし存在。
 彼女は生業であるサポート役をこなしながら、その大いなる力を利用するようになっていた。

(再生した当初、御使いは幼い子どもの姿になり、余分な記憶は消去される。それゆえ扱いに困ることはなかったのだが……)
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