前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 剣は、同じ山に巣くっていた嫌みな蛇だった。
 輝く白い鱗がちょっと神々しくて、「イケメンだ」と山の動物たちからは人気を集めていたけれど……もちろん、ハムスターは捕食・被食関係にある蛇が大の苦手。

『ほれほれ、もっと早く走れ。追いついたら、食ってしまうぞ』
『ぴえぇぇぇん』

 とまぁ要するに前世では、ハムスターだった公花は蛇であった剣にしょっちゅう追いかけまわされ、食べられそうになっていたのだ。「黒歴史」の文字が脳裏をよぎる。

 なぜ今でも前世の記憶があるのかは、公花にもよくわからない。
 家族にもそれとなく聞いてみたが、「またアホなこと言って、この子ったら」と一笑に付されて終わった。
 どうやら「記憶持ち」は自分だけらしい。その記憶も鮮明なわけではなく、本当にところどころの切り口で、あいまいなものなのだが。

 ――まぁそんなこともあるのだろうと、気楽に考えていたけれど。

(こんなところで知り合いに遇うなんて! でも、よりによってあの人かぁ……)

 思わぬ巡り合わせに、気分はぶっ飛びハムスター。……これは最近子どもたちに人気のアニメの主人公で、ぶっ飛んで驚いてばかりいるキャラクターなのだが――まさにそんな心境。眠気も吹っ飛ぶ大覚醒だ。

 ともあれ、その後は大きな問題もなく、入学式は終了した。
 ひとり目をチカチカさせたまま、体育館から退場する。
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