前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 ――四百年ちょい前の、五穀御剣山。

 紅葉の絨毯が美しい季節。だが、今はあたりに薄い雲のような霧がかかって、見通しが悪い。空気はひんやりと湿っている。

 時刻は早朝のようだが、捕らわれて何度目の朝なのかは、もう数えるのも飽きて忘れてしまった。

 先日、山を散歩していたら、人間が仕掛けた罠にかかり、檻から出られなくなった。しかも罠を設置した人間のほうは、それをしたことすら忘れているのか、何日も姿を見せない。

 縦横に張り巡らされた細かい網目は、この細い身ですら、すり抜けることもできなくて。
 ときどき隙間から入ってくる小さな昆虫を食べたりしていたが、足りるはずもない。

 最初のほうはひもじくて苦しかったが、今では感覚もなくなってきた。一般的な蛇以上に長生きしてきた自分だが、ついにここまでか。

 死を覚悟したそのとき、怯えたような、か細い声が耳に届いた。

「どうしたの……?」

 声がしたほうへ視線だけ向ける。一匹のハムスターが木陰に隠れて、こちらを覗いていた。

 なんだ、いつも追いかけて遊んでやっている、団子ねずみじゃないか。
 はぁ、情けないところを見られたな。笑いたくば笑え。
< 36 / 134 >

この作品をシェア

pagetop