前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 問いかける力もないこちらの意図も組まず、ハムスターは少し離れて助走をつけると、なんと走ってきて、中途半端に突き刺さったままの棒に向かってジャンプした。

 見事なダイビングプレス。
 ぼよーんと丸いものが棒の端に飛び乗ると、その反対側は上に持ちあがろうとして、蓋をわずかに押し上げる。テコの原理だ。

 さらには連続ジャンプ。蓋がガコンガコンと揺れている。

「は、早く~、外に出て~」

(……え?)

 我に返った自分は、蓋が持ち上がっている隙に残った力を振り絞り、するんと檻から抜け出した。後ろで杭が外れて、がちゃんと蓋が閉まる。

(やった……)
 脱出はできた。だが、限界がきて地面にへばりこんでしまう。

 もう力が出ない……瞼を上げる元気もないんだ。
 白蛇は目を閉じた。


 ──ぴちょん。
 頬が濡れたのに気づいて、うっすらと瞼を開ける。

 ハムスターが葉っぱの皿に、朝露を乗せてこちらに向けていた。

(水……)
 夢中で舌を出し、水滴を舐めとる。うまい。自然の気を感じる。

「はぁ……」
 落ち着いた、という風に、ため息をついた。もう大丈夫。少し休めば、なんとかなるだろう。

 尾を揺らして合図を送ると、ハムスターはそれを見て、安心したように目を細めた。
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