前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
(こいつの顔を見ていると、妙に気が抜けるな……)

 しばらくして、団子ねずみは去っていった。しん、と静けさが訪れて、なぜか物寂しいような、物足りないような、妙なもどかしさに包まれる。

(今はともかく、休もう……)
 全身にかかる重力に身を任せ、吸い込まれるように意識を手放した。

 そうしてぐっすり飽きるほど眠って、すっきりとした気持ちで目を覚ましたのは、数日後のこと──。

 見れば、体には落ち葉の布団がかけられて、たくさんの木の実やキノコが、そばに山積みにされていた。

       *

 ――暖かい手が額に触れて、瞼を開いた。

 夢から醒めて、靄が晴れたような視界の中で、こちらを覗き込んでいるのは、制服を着た人間の女の子だ。

「……公花?」

 姿は変わり、体は大きくなったけれど、どんぐり眼はあの頃のまま、透き通った湖面みたいな純粋さをたたえている。

「わっ、剣くん、起こしちゃった? ごめんなさい!」

 ばんざいの姿勢をとって、公花が身を引いた。
 公花の手の平、温かかったな。別に、もっと触れていても構わないのに。

「熱でもあるのかと思って……でも、剣くんのおでこ、冷たいね?」
「基礎体温が低いから、熱はほとんど出ないんだ」

 周囲を見回して、ここが保健室だと状況を確認する。

 自分はさっき、教室で倒れたのだったな。

 といっても、立ち眩みがしただけで、あの場では、すぐに意識を取り戻したのだ。救急車か家の者を呼ぼうかと問われたが、少し休めば大丈夫と言って断った。
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