前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 まぁ、お互いに大勢いる生徒の中のひとり。関わらないようにすれば、特に問題はないだろう。
 きっと向こうには、前世の記憶はないだろうし、こちらに興味もないだろうから……。

 ――なぁんて、高をくくっていたのに。

「おまえ……あのときの月見団子か? まるまるもっちもっちした体で、どんくさく草むらの間を逃げ回っていたよな」

 一学年の教室が並ぶ三階の廊下でばったりと出くわした剣は、細い目で公花を見下ろし、薄い唇を歪めて笑った。

(お、覚えていらっしゃる……?)

 前世の記憶がある人間って、ありふれているのだろうか?

 頭の中はこんがらがってまとまらないが、「天敵」への警戒心は魂に刻み込まれている。逃げなければと思うが、足が竦んで動けない。
 恐怖のあまり、彼の背後に、金色の目を光らせ先の割れた舌を出す、白蛇の幻影が見える――。

 すれ違う女子たちは、一躍有名になった剣から話しかけられている公花を、羨ましそうに眺めている。
 中にはチクチクと嫉妬の視線も感じられ――待って、喜んで代わってさしあげたいのですが!

「そう警戒するな、取って食うわけじゃないんだから。おまえ、現世での名前はなんていうんだ? 懐かしいな。楽しくなりそうだ」

「違います、あずきカチカチ山の私は、私ではありませんっ」
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