前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 じっと目を離せずにいると、彼の瞳がぐりっと上向いて、こちらと目が合った。

「……なんだ?」
「い、いえいえ、なんでもっ」

 なにごともなかったように、処置した足に靴下を履かせ直してくれる──。

 かなりのニブチンとはいえ、公花とて年頃の女の子。
 ふくらはぎの裏側に添えられた手や、相手の顔の近くに足先を向けていることなどが気になりだして、ソワソワしてしまう。

「あ、あの……。汗でベタベタだし、臭かったらそのぅ、すみません……」

 剣はそんなことかと、小さく笑った。

「大丈夫だよ」

 彼の手は、額と同じ、少しひんやりとしている……。
 全体的に火照った体に染み入るようで、ちょっとだけ首筋がぞわぞわした。

(今日は、優しいほうの剣くんだ……)

 怪我人には優しく接したくなるのが人情というもの。
 やっぱり彼も人間だったんだ、なんて思いながら、次の授業から教室に復帰できそうだと安心する。

 手当てを終えた剣は、手際よく道具を片づけて立ち上がった。

(あっ、終わったんだ……)

 棚に救急箱を戻しに行く広い背中を眺めながら、改めてお礼を言わねばと思っていると、

「公花、おまえ……あまり無茶をするなよ。……俺の、目の届くところにいろ」

(え?)

 そんな言葉をかけられるとは思っていなかったので、固まってしまう。

 ぽかんと後ろ姿を見つめていると、彼がふいにこちらを振り返り、ぱしっと目が合った。

「なんだ? 聞いてるのか?」

「あ、ううん! うん、うん、わかった! それでえっと、剣くんは、まだ休んでいく?」

「ああ……うちは次が体育だから、少し面倒だ。ここで本でも読んでいくよ」
< 44 / 134 >

この作品をシェア

pagetop