前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
「えっ……」

 公花は蒼白になった。
 きっとあれだ。悪い人が弱い者を狙って、お金をむしり取る――。

 教師に助けを求めたかったが、学食方面でもない渡り廊下は、お昼休み時間中ゆえに極端に人通りが乏しい。

 だが、もっと人目につかないところに連れ込まれでもしたら大変だ。先手を打たねばと、震えながら声を絞り出す。

「は、話なら、ここで……! でも、お金はありません。カラアゲは、悪いことだから……」

「は? 唐揚げ?」

 カツアゲの間違いだが、言った本人はいたって真面目。
 相手は、意味がわからずぽかんとしている。

 なにやら意表をつくことには成功したが、ピンチな状況は変わっていなかった。

「話って、なんですか?」
「いや、実は……ちょっと前から、あんたのこと、その……狙ってたっていうか」

(狙ってた!? もう勘弁して~、怖いよぉ!)

 よく見れば相手はもじもじして顔を赤らめ、悪意がないことはわかりそうなもの。
 しかし彼は肌が地黒なため、照れている様子は見た目では判別できない。
 髪の色が金色なのも、実は趣味の競泳による塩素焼けなのである。

 だが、漫画でしか見たことのなかった「不良に絡まれる」という学園あるあるのシチュエーションに、公花の頭の中は危機感に支配されていた。

 怯えを見せては、つけこまれてしまう。要は、こいつは獲物にするには面倒だと思わせればよいのだ。

 ……キッ!
 ぷるぷる震えながら、潤んだ丸い瞳で、必死に威嚇するが――。

「やっぱり……(かわ)いい……。あ、あのさ」

 ズイズイッ。焦れたように、彼がこちらとの距離を狭めてくる。

(ひぃっ、睨んでるのに近づいてくる!? なんで!?)

 だけどこういう困ったとき、やっぱり駆けつけてくれるのは――。
< 55 / 134 >

この作品をシェア

pagetop