前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 ――トン、と後ろから、優しく肩に手が置かれた。

 はっと振り返ると、頭ひとつ上の位置から見下ろしている美少年。涼やかな顔をした、蛇ノ目剣だ。

「剣くん!」
 公花はぱああっと表情を輝かせ、
(やっぱりね!)
 と、双方にドヤ顔を披露する。

「公花。どうかしたのか? ……うちのクラスの風間(かざま)か」
 と言って、男の子のほうをチラリと見る剣。
 どうやら不良の彼は、剣と同じクラスの生徒のようだ。

「蛇ノ目……いや、俺は別に」

 風間くんとやらは少し気まずそうに、視線を伏せて頭をかいた。

 未遂だし、あまり大ごとになっては可哀想かもしれない。
 ちょっぴり気を遣って、先ほどの剣の問いに、公花が遠慮がちに答える。

「カラアゲ……じゃなくって、えっとよくわからないんだけど話があるって」
「唐揚げ?」
「?」

 三人とも首を傾げ、微妙な空気が流れたが、自らの安全を確信した公花には、謎の余裕が生まれている。
 晴れやかな笑顔で風間に向き直り、言った。

「ごめんね、そういうことだから……お力になれず!」

 だが、相手はせっかくの機会をふいにされてはたまらないと、食い下がってくる。

「ち、違うんだ。俺はただ、こ、これを受け取ってもらいたい、と……」
「え……?」

 彼が、制服のポケットからなにかを取り出す仕草をしたので、一体なんだろうと身構えた。
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