前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 この文章の正しい訳は、「私の望むとおりにどうして(物語の内容を)覚えていて語ってくれようか」といったところだな。

 それに対し、公花が書いた答えは――。

『私の思うままに空にでっかいイカが……』

 ばんっ。

 思わず机に教科書を叩きつけてしまったが、そうせずにいられようか。

「おまえな……」
「?」

 その悪意のない目。きょとんとした顔をやめろ。

 なにをどう言ったらいいのか思考停止に陥ってしまい、ひたすらに腹の底から、深い深~いため息を吐き出した。

「どうしたの? 剣くん、疲れてるんじゃない?」
「疲れているのはおまえのせいだ、この脳筋生ハムソーセージが!」

 図書室で大声を出してしまった自分を許してほしい。

       *

 ――パンッ!

 晴天の下、小気味いい銃声が響いた。
 音とともに地面を蹴り出す。練習のときよりも最高のスタートを決めて、先頭に躍り出る公花。

 白線で定められたコースを、風をきって、走る、走る、走る!

 公花は勢いのまま白いゴールテープを切って、勝利の右手こぶしを掲げた。

「うぉぉぉーーー! 我がクラスが誇る神足のハム〇郎、安定の一位ーーーッ」

 自分のクラスの待機席から、くるみをはじめとする級友たちが歓声を送ってくれている。

 生徒たちの元気な掛け声に、軽快なBGM。
 今日のよき日、当学園は、体育祭の本番を迎えていた。
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