前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
(はぁー、楽しいなっ)

 待ちに待ったスポーツの祭典。一年に一度の晴れ舞台に、公花のワクワクは止まらない。
 徒競走では活躍もできるし、頭も使わなくていい。気分は上々、絶好調。お天気までが味方して、気持ちがよくて最高だ。

(毎日、こんなだったらいいのになぁ)

 この後は、クラス対抗の大縄跳びや、学年全員で踊るダンスもあるし、お昼のお弁当タイムも待ち遠しい。

(くるみちゃんが出る障害物競争も楽しそうだなぁ。一緒に出たかったなー。別にひとり二種目までなんて決めなくてもいいのに)

 そんなことを考えながら、選手群とともにグラウンドの中央から引き上げて、退場門のそばを通過したとき――。

 ぐらり、と柱が揺らいだ気がした。

(えっ……?)

 柱は静かに傾き、スローモーションのようにこちらに近づいてくる。

(倒れてくる……!?)

 簡素な作りだが、頑丈な鉄の棒だ。ぶつかったらどれくらいの衝撃があるのか、想像もつかない。

 教師らは、まだ誰も異変に気づいてはいない。気づいていても、助けに入るにはとても間に合わないだろう。
 自力で避けなければ、そう思うのに、縫いつけられたように体が動かない。

「公花!」

 離れたところから、自分の名を呼ぶ声がした。
 けれどもそちらを向いている余裕はないのだ。迫ってくる鉄棒から目を逸らせない。

 もうダメだ――目の前に影が落ちた瞬間、倒れ込む軌道が不自然に曲がった気がした。

 柱は公花を避けるように動き、体の横すれすれを通って、地面をえぐった。
 ガランガラン……と重い響きが周囲にこだまする。

「うわぁー! 柱が倒れたぞ!」
「おい、怪我はないか!?」
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