前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 雰囲気に圧されて尻餅をついた公花が、そのままの体勢で呆然としていると、教師たちが慌てて駆けつけてきた。
 その中には、担任の田中の姿もある。

「日暮! 怪我は?」
「だ、大丈夫です、どこにも当たらなかったので……」

 面食らいながらもそう答えると、別のところでも悲鳴が上がった。

「きゃーっ!」
「誰か倒れたぞ!」
「どうしたの、蛇ノ目くんっ」

(え……?)

 公花は騒ぎのほうへと顔を向ける。
 そこには、砂地のグラウンドに倒れ伏した、蛇ノ目剣らしき男子の姿があった。

       *

 深淵から滲むようによみがえる、懐かしき時代の記憶。
 白い靄に包まれて、柔らかく立ち昇ってくる。

 ここは夢の中。明晰夢の世界。
 自分自身が登場人物のひとりとして出演している夢を、もうひとりの自分が観客として眺めている、そんな状況だ。

 まるで映画のように、シーンは流れていく。

 その一幕の主人公である白蛇は、深く嘆き、悲しんでいた。

 目の前には、腹を見せて無防備に転がっている一匹のハムスター。

 ふわふわだった毛は乱れ、呼吸はか細く途切れかけている。彼女は寿命を迎え、今まさに命の灯が消えようとしているのだ。

 天に定められた命の尺だから仕方がない――なんて納得できるはずもない。永らく生きてきた中で、初めて心通じた相手なのだから。

(寂しい。失いたくない――)

 蛇は、彼女の死の運命を変えることはできないかと、至高たる存在に願った。

 すると超自然の思念体である「光」が、淡く明滅し、空気が動いた。

『……。……、……』
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