前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 思念体は、答えたのだ。「それはできない」と。
 音が発せられたわけではない。頭の中に直接語りかけられているとでも言おうか。

 それに対し、蛇は即座に切り返した。

「叶わないのならば、自分の寿命も一緒に奪ってほしい」

 だがそれもまた、返ってきた返事は「否」。
 蛇は、慟哭した。

「……天よ。世を見つめ、生き続ける虚ろな存在として選ばれてから、はや幾年。気づけば理をはずれ、多くの命を見送った。我ひとり、こうして姿を変えず、時の流れから取り残されて……。
 なんの因果か背負わされた宿命に、文句を言うつもりはない。さりとて我は価値ある大業を成したわけでもなく、これからも成し遂げるつもりはない!
 こんな怠惰な我が、神の使命を果たすは役不足。いっそ解任してはくれまいか」

 思念体は、蛇を諭す。

『――それはできません。あなたは選ばれ、神域に入った者だから』

 もとより理屈が通る相手ではない。
 それでも引いてなるものかと、対話にしがみつく。

「……役務の解放が無理であれば、どうか彼女にも慈悲を」

『彼女は、あなたとは違う。摂理の中に生きる分子のひとつに過ぎません。それ以上でも、それ以下でもない』

 彼女の肉体はここで消滅する、それは避けることのできない運命。
 それに、永遠の命を与えることは、彼女にとって慈悲とはならない。このことは蛇自身が一番わかっているはずだと。

 蛇は言葉をなくし、黙りこくった。

 引き下がったわけではない。次の一手を考えているのだ。
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