前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 自然の摂理である「死」を巻き戻すことは不可能……。「死ねない」ことの虚しさも知っている。
 だからといって、はいそうですかと受け入れられるものか。

 一緒にいたい。ただそれだけだ。

 欲のない素直な自分は、とっくに消え失せた。諦めの悪い性格こそが、本来の我である。

(ならば、どうする――)

 牙をむき、世を荒らすか、仕事をボイコットするか。
 そんな黒い企みを巡らせていると、思念体はわずかに揺れる声で言った。

『不穏なことを考えているようですね。御使いは摂理のひとつ。機能しなければ世が乱れるというのに、嘆かわしいことです……』

 どうやら筒抜けのようだ。
 神仏は無慈悲なものだと思っていたが、目の前の存在は長く人の世に関わったゆえか、どこか人間味があるように感じる。

「知ったことじゃない」
 やさぐれた子どものように、蛇は言った。

『たしかにあなたは、これからも気の遠くなるほど長い月日を生き続けなければならない。それは楽なことではないと察します。
 ――そうですね、考慮の余地はあるでしょう』

 気の毒とでも思ったのだろうか。自然たる存在は譲歩し、言った。

『では――。魂を縁で結びましょう。いつかまた巡り合えるように。肉体は滅びても彼女の魂は輪廻の輪をくぐり、いつか転生するでしょう。それでよろしいですか』

「……それしか方法がないというのなら」

 蛇は、頷いた。
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