前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 動物に変身するなんて通常なら信じられない現象だが、前世の彼の姿を覚えているだけに、不思議と抵抗はない。

(そういうものかぁ……)
 なんて思いながら、目をぱちくりする公花。

 剣は、公花がちんぷんかんぷんになってフリーズしていると思ったのだろう。言葉を選びながら、ゆっくりと解説していった。

 彼は普通の人間ではなく、妖の類いで、実はそれすらも越えた、神に近い存在。
 とても長生きしていて、神通力という不思議な力を使えること。

 体育祭で柱が倒れてきたとき、公花が無事で済んだのは、どうやら彼がその力をもって助けてくれたのだということも。

 公花にも前世の記憶はあるが、ちょっぴり幸運に恵まれているだけで、れっきとした人間だ。同じように「ただの人間」である父と母の間に生まれた、平凡な女の子。
 剣とは、根本からして違う。

「そうなんだ……なんか、剣くんは普通の人とは違うなぁとは思っていたけどね」
『信じるのか? 俺の話を』
「うん、信じるよ?」

 疑う気持ちなんて微塵もなかったのだが、そう答えたとき、彼はどこかほっとしたような表情を浮かべていた。

『俺のことが……気持ち悪いとか、恐ろしいとかは……』
「ないない。そりゃあ、びっくりはしたけど」

 いつもお世話になっている彼のこと。
 嫌だとか、怖いなんて、思うはずもない。

 けれど、ここからが問題。

「つまりは……人間の姿に戻れないほど、弱ってしまったってことだよね?」
『ああ』

 力の源である「神通力」の使い過ぎで、人の姿を保てなくなってしまったというけれど……。

「家の人は、知ってるの……?」
『わからない――だが、家には戻りたくない。これ以上、仕事で力を使わせられたら、それこそ消滅してしまう』

 ここらへんの説明は詳細ではなかったが、要するに彼の実家、蛇ノ目家は、剣の力を利用しようとしているらしい。
 こんなに弱りきってしまうほど、酷使されているのだろうかと、公花は同情した。

「大変だったんだね……そんなにもヘトヘトになるほど、こき使われているんだ」

『それはおまえも原因……いやなんでもない』

「でも、これからどうするの? その姿じゃ学園にも行けないよね……しばらくすれば、元に戻れるの?」

『体力が回復すれば、姿は戻ると思う。それまで、ここに匿ってくれないか?』

「うん、わかった……え? うちに!?」

 ぽろっと飛び出すのではないかというほど、目を大きく見開いてしまう。

 蛇を……苦手な生き物代表ともいえる蛇を飼う。
 いや実は人間なのはわかっているのだが。

 そもそも、男の子がひとつ屋根の下に居候? モラルの面でも、いろいろと問題があるのでは。
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