前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
「そうなんだ……。私、前世の記憶があるといっても、あんまり覚えていないんだよね。特別な力もないし……。どうせなら、もっとすごい奇跡が起こせたらいいのにな。剣くんみたいに、幸せを呼ぶ力とか!」

『幸せ……』

 たしかに公花にはそう言い含めて、この家に置いてもらったわけなのだが。

 蛇は、しゅんと視線を落とした。
 なにが幸せを呼ぶ、だ。組織の元で、自分が今までに行ってきた力の使い道を知ったら、彼女はどう思うだろう。

 嫌われたくない。生き方を改めることは、今からでも、間に合うのだろうか……。

 そもそも、公花の意見も聞かずに、永遠の輪廻に巻き込んだのは剣自身なのだ。
 公花の記憶や能力が不完全なのは、己との再会の約束のせいかもしれない。

 勝手なわがままで、公花の魂までも繋ぎ止めた――先日思い出したばかりの記憶を振り返りながら、(本当の幸運の神は、おまえこそが相応しいよ)と心の中で思う。公花が前世と呼ぶ時代から、幸せを貰っていたのは、いつも自分のほうなのだ。

『公花、これを』
「ん? なぁに?」

 剣は、公花にきらりと光る一片を、鼻先でつつくようにして差し出した。
 虹色に輝く、一枚の鱗だ。

 公花はそれをつまみあげ、蛍光灯の明かりに透かして目を輝かせる。

「きれい……平たい飴玉みたい。くれるの?」

『ああ。俺の力がこもった鱗だ。お守りになる。持っていてくれ』
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