前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 渋々ひとつ摘んで差し出すと、白蛇はそれを咥えて口をもぐもぐさせながら、ひょっとバッグの中に引っ込んだ。

 この場所でなら、誰かに見られる可能性は低い。
 鉄の扉が開けば、錆びた蝶つがいの音がするからすぐにわかる。蛇の小さな体を常に隠すほど警戒しなくてもよさそうにも思えた。

 ――だからといって油断したわけでもないのだが。

 公花が気づくことは難しかっただろう。向かい側の教室棟の屋上の鉄柵から、カラスが一羽、じっと見つめていたことに。

       *

 もう少しで今日のすべての授業が終わる――そんなタイミングで教室に駆け込んできたのは、教頭先生だ。

「日暮さん、いますか!? すぐに家に戻ってください、ご自宅が火事になっているみたいで……!」

「えぇ!?」

 突然の凶報。
 取るものも取らずに、教室を駆け出た。

 徒歩圏内なので、走れば十分とかからず自宅前へとたどり着く。

(嘘でしょ……)

 自宅前へと来て、呆然と立ちすくむ。

 目に映るはめらめらと燃える炎。けれど、燃えているのは自宅ではなかった。

 家の裏には公共の空き地があり、一帯の家々のゴミ集積場にもなっているのだが、出火元はそこらしい。

 地面に生えた雑草に燃え広がってしまったようで、まるで焼き畑のようになっている。赤いベールのような炎が浅く広くちらちらと揺れ、黒い煙が立ち上っていた。
< 80 / 134 >

この作品をシェア

pagetop