前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 けれど痛みは感じない。いつの間にか、公花の体は、別の影に守られている――。

「剣くん?」
 人間の姿に戻った剣が、公花をかばうように覆い被さっていた。

「公花……」

 久しぶりに見た、整った少年の顔は、闇に浮き上がるように白く、美しかった。

(……っっっ!!)

 顔面が攻撃力抜群のクール美男子に床に押し倒されている体勢は、本能的に平静ではいられない。心臓が「ドッ」と音を立てて、そのまま停止しそうになる。

 けれど、すぐにそんな動揺も吹っ飛ぶくらい、彼の表情は苦痛に歪んでいた。
 額には汗が滲み、悲壮感が漂っている。

(剣くん、顔が真っ青……)

 落ちてきた荷物類は、見えない壁に弾かれたように、自分たちの周辺に散らばっていた。剣が神通力を使い、退けたのだろう。

 剣は膝立ちのままよろりと動き、公花を後ろに隠すと、襲撃者を睨みつけた。

黒尾(くろお)………樋熊(ひぐま)……!」

「あーあ、だいぶ痛々しいですねぇ」
 赤眼の男、もとい黒尾という名らしき敵が、嘲るように言う。

「ご当主。すっぱだか」
 もうひとりの樋熊と呼ばれた大男が呟いたとおり、蛇から人型に戻った剣は、服を身につけていなかった。色白だけれど、軟弱ではない男らしい背中が闇に浮き上がっている。

(ひゃああっ)

 こんなときになんだが、なんとかせねばという思考が働いて、足元に毛布があったのを引っ掴み、素早く彼の肩に被せる。ふぅ、これでよし。

 うすら笑いをやめない黒尾が、煽るように肩を竦めた。
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