前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 樋熊に抱えられた公花は、完全に足が浮いて自由を奪われてしまう。足をばたつかせて暴れるが、びくともしない。

 と、公花の頭の後ろにクンクンと鼻を寄せた樋熊が、首を傾げて呟いた。
「なんか元気だなぁと思ったら、この子から、ご当主の力、感じる」

「ん? そう言われてみれば……」

 公花に力を与えている「源」を感知した黒尾は、ポンと手を叩き、おどけた仕草をとった。

「あっそうだ。一番はアレを回収しろって言われてたんだった。ご当主は二の次だったんだよねぇ。忘れてたぜ、危ない危ない」

 樋熊に「そのまま押さえとけ」と指示した黒尾は、はりつけ状態となった公花の顔前に長い爪の生えた指を伸ばしてくる。

 顎をクイと持ち上げられ、喉をさらされておびえるも、あちらの目的は公花が首から下げているお守り袋だったらしい。
(えっ……)
 首元にあった紐を、尖った爪でプチッと切り取られてしまう。

 中には剣からもらった虹色の鱗が入っている――黒尾の狙いも、それだ。奪われたくなかったが、抵抗できない。

「返して! どろぼー!」

「キーキーうるさいなぁ。やっぱり黙らせておくか。後始末は、婆様がうまくやってくれるっしょ」

 凶器の爪をひけらかし、舌なめずりする姿に、ゾッとする。
 あの爪で刺したり引っかかれたりするのだろうか。

 焦らすようにゆっくりと爪の先が迫ってきて、ぷつりと喉元に押し当てられた。
 やっぱり怖い、先端恐怖症になりそう!

 すると、後方からバシッと大きな音がしたと思うと 後ろの樋熊が低く呻いて、ふいに拘束が解かれた。
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