前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 その組織とは、裏で非合法の悪事にも手を染めている宗教団体「騰蛇」――。

 敵は異能を持つ集団であり、その筆頭である教祖の名は「蛙婆女」。その人も「普通の人間」ではなく、長く生き続けてきた強力な妖だという。

 蛙婆女は、元々はご神体をサポートするために存在する「側仕え」と呼ばれる役割を持っていたが、常人よりも長く生きたために知恵と野望を増長させ、悪だくみをするようになった。

 組織は邪教集団と化し、本来は繁栄をもたらす存在である剣の力を吸い上げて、能力者の覚醒や、裏の世界で要人を呪ったりして暗躍しているらしい。

 公花は、剣が自分の家に帰ろうとしなかった理由を、はっきりと理解した。
 そんな邪教の神みたいに崇められて、利用されて、彼が嬉しいと思うはずがない。

「やつらに、剣を渡してはならない」
 厳しい表情で、おばあちゃんが言った。

「そりゃあ、剣くんのことは守ってあげたいけど……どうしたらいいの、教えて、おばあちゃん。っていうか、助けて!」

「……すまないが、わしが力を貸すことはできん。思い余って、おぬしのおばあちゃんの体を借りて、しゃしゃり出てしまったが……これ以上の干渉は許されない。わしはもうすぐ消滅する。その後は、元のおばあちゃんへと戻る……」

 声はノイズがかかったようにかすれて、切なく揺れていた。

 ――かつて思念体であった存在は、公花と、その手の中で眠っている蛇を、優しく見つめた。
 本当は俗世と関わることは、禁じられていた。それでもつい、手を出してしまったのだ。彼は、息子のような存在だから。

「長く、見守り過ぎた――。どうか、その子を助けてやって」

 ぷつりと、不自然に声が途切れる。

 しゃきっとしていたおばあちゃんの姿勢が、ゆっくりと丸みを帯びていく。一度閉じた瞼を再び開いたとき、いつもの穏やかなおばあちゃんに戻っていた。

「はにゃ? わしゃ、どうしたんかいのう」
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