前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
(え? 俺、死んで……ない……?)

 龍鱗は、お守り袋に入ったまま、変わらず手元にあった。手の平には、びっちょりと汗をかいている。

 体は――無事だ。血も吐いていない。
 じりじりと音を立てる街灯のそばで、心もとなげに立ち尽くす。

 少し離れたところに立っている樋熊が、きょとんとした表情で、「どうしたの?」と尋ねてきた。

「……今のは、夢……?」

 ――カァー! カァー!

 そう遠くない位置から耳障りな鳴き声が発せられて、びくりと震える。

 闇夜に紛れていて、気づかなかった。
 ハッと声のほうを見上げれば、塀の上に一羽の真っ黒いカラスが止まっている。

『見せてやっただけじゃよ。起こっていたであろう、ほんの少し先の未来を、な――。楽しかったか?』

 くぐもったような教祖の言葉が、カラスの鋭く尖った口から発せられた。
 すべて、読まれていたのだ。

「げ、幻術……」
「? えっと、婆様の声? ……あ、式神のカラスを通して、喋ってるのかぁ。婆様、どうかしたんですか?」

 事情をわかっていない樋熊が、カラスと黒尾を交互に見る。

『なに、ちょっとした余興をな。さぁ、早う報告に戻るがよい。夜遊びもほどほどにせぬと、家を閉め出してしまうぞ』

「……やだなぁ、冗談ですって。すぐ戻ります」

 額の汗をぬぐい、黒尾は薄い唇を歪めて笑った。
 本来、狡猾で慎重な黒尾は、これ以上の深追いはすまいと心の中でかたをつけた。なにごとも、命あっての物種だと──。
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