没落寸前の伯爵令嬢ですが王太子を助けてから雲行きがあやしくなってきました
「あなたのご両親やご兄弟やお友達や恋人が悲しみます。絶対にそんなことしちゃダメです」

「は?」

自分に組み敷かれて危機的状況のくせに、何を説教めいたことを言っているのだろう?

「なぜ悲しむのだ?」

「あなたが命を絶とうとしているからです。それは絶対にしちゃダメなんです!」

「は?」

力説する女の顔を見て、そして改めて回りの状況を鑑みて、そしてやっと状況把握できた彼は、突然笑いがこみあげてきて、クスクスクスと笑い始めた。

崖の上、断崖絶壁のこの場所でひとり佇んでいた自分。
この女は自分がこの崖から飛び降り、自殺をしようとしていると勘違いしているのだとようやく気付いたのだ。

「悲しいことがあったなら聞いてあげますからどうか死なないで」

さらに、こんなことをいうその女に、笑っていた彼はすっと笑うのをやめ、彼女を見つめた。

自分の話を聞いてくれるというのか?
おもしろい。
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