没落寸前の伯爵令嬢ですが王太子を助けてから雲行きがあやしくなってきました
「おまえは誤解している。俺は、ここから飛び降りようとしていたわけじゃない」

「え?でも…」

女は信用できないとでもいうようにじっと目を見ている。

「状況的にそう見えてもおかしくないのはわかったが、さすがに死にたいと思うほど悩んでるわけではない」

「そ、そうなんですか?」

少しは疑いを解いたか?

「少々、疲れていたことは事実だ。だからひとりになりたくてここに来たのだ。少ししたら帰るつもりだった。お前の心配するようなことはない」

「ほんとうに?」

「ああ」

信用したらしい。

「よかったです」

ほっとしたように顔をほころばせた。

えっ…

その女のほころんだ顔にドキッとした自分に彼は驚いた。

「だが…少し疲れていたことは事実だ。少し話を聞いてくれるか?」

「わかりました。では少しこの手を緩めてくださらないでしょうか…」
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