没落寸前の伯爵令嬢ですが王太子を助けてから雲行きがあやしくなってきました
そのころフィリシティは、恐ろしく群がる男性のダンスの誘いに驚きながらも、決してうまくはないダンスを何度も踊らされ、田舎の草原でならした体力も消耗し、さすがにかなり疲れ始めているところだった。

最初にやんわりと断ろうとしたところ、ハンナ叔母はそれをゆるさなかった。
叔母が厳選して選んだ男性の誘いだけを受けてダンスをしなさいと言われ、フィリシティは仕方なく踊り続ける羽目になったのだ。

こうしてフィリシティがハンナ伯母の助言通りにダンスの相手を選んでいることから、何度かダンスをしたころにはフィリシティがトンプソン家ゆかりの令嬢だという噂が広まり始めていた。


「フィル!」

夜会も終わりに差し掛かったころ、近衛兵の制服を着たハーヴィがよくやく駆けてきた。

「ハーヴィ…」

すでにへとへとだったフィリシティは助かったとばかりにハーヴィに救いの目を向ける。
と次にダンスに誘おうと思っていたどこぞの令息ががっかりしたように肩を落としているがフィリシティはへとへとでそれどころではない。

「申し訳ない。フィリシティは僕と次の予定がありまして」

ざわざわと周りが騒がしくなった。

「次の予定といったわよ」

「何の予定?」

「おい。フィリシティと言ったぞ。どこの令嬢だ?」

「フィルと愛称で呼んでいたぞ」

コソコソと聞こえてくる声は無視し、ハーヴィはハンナに向き直った。
< 43 / 265 >

この作品をシェア

pagetop