没落寸前の伯爵令嬢ですが王太子を助けてから雲行きがあやしくなってきました
「トンプソン夫人。少しフィリシティをお借りしても?」

紳士然としたその挨拶に、ハンナは毅然としてうなづいた。

「紳士としての礼儀は守ってくださいね。フィリシティはまだ嫁入り前ですから」

「承知しています」

その言葉と紳士然としたハーヴィの態度にハンナ伯母も満足したようにうなづいた。

流れるように差し出されたハーヴィの手をとるとフィリシティはまわりに会釈をし、その場を辞した。

さすがのフィリシティも夜会に慣れてきた今、みんなが自分たちに注目していることはわかった。
けれどそれはおそらく、イケメン近衛兵のハーヴィに向けられた視線だと思っていた。
まさかその視線が半分は自分にも向けられたものであるとは考えもしなかったのである。

「ハーヴィ。モテるのね」

「え?」

ホールを出て、人がまばらになるとこそっとフィリシティがつぶやく。
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