没落寸前の伯爵令嬢ですが王太子を助けてから雲行きがあやしくなってきました
「自分が…自分じゃないことだ」

そのまま視線をはずし前を向く。

「ほんとの俺はもっと悪い人間なのにまわりは良い人間を求めていて俺は生まれてからずっとそれを演じ続けている。とびきりの良い人格をだ。そしてもしかしたらそれが一生続くのかと思ったら発狂しそうになった。それでここに来て冷たい空気を吸っていた」

「演じているのですか?」

「ああ」

「それはやめてはいけないのでしょうか?」

「そうだな。俺の立場上、許されない」

「そうですか…。では時々ここから叫ぶのはどうでしょうか?」

「え?叫ぶ?」

あまりの突拍子もない答えに一瞬口をあんぐり開けてしまった自分がいた。

「ええ。わたしも逃げられない立場があるのですが、時々嫌になったらここに来るんです。それで崖の上から叫びます」

マジか。彼女が…。
彼女が叫んでいる様子を思い浮かべて思わず吹き出しそうになった。

「そしたらすごく悩んでることがばかばかしく思えて、明日からもがんばろうって思えるんですよ」

笑いをこらえている自分を尻目に彼女は真面目に力説する。

ふと思った。
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