没落寸前の伯爵令嬢ですが王太子を助けてから雲行きがあやしくなってきました
彼は馬にのって来ていた。
馬で送ってやればすぐのはずだ。

「いいえ。大丈夫です。すぐに帰れますから」

くるりと踵を返しそのまま歩き始める。

「おい。待て」

それでも歩くので、つい手をひっぱってしまった。
その反動でくるりと回転し、自分のほうへ向かせる。

「送るといってるだろう。いいから来い」

そして強引に手を引くと馬に乗り、彼女をひっぱって自分の前に乗せた。

「よかったですのに」

「そういうわけにはいくまい。ひとりでほおっておくと今度はお前が崖から飛び降りてはかなわないからな」

「まぁ…」

くすくすと笑っているのか、肩を震わせている。

後ろから見ると、つやのある綺麗な髪であることがわかる。
後ろで束ねてひっつめているのは、おそらくこの令嬢が令嬢らしからぬことを毎日しているからに違いない。

先ほど見たドレスのスカートにもわからないように補正が施されていた。
叫んだ内容といい、かなり困窮しているのだろう。

けれど、ピンと背筋を張ったその華奢な体からは、貴族令嬢としての矜持と誇りを感じた。

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