初恋カレイドスコープ
唖然とした顔で玲一さんを見つめ、青木副社長はぱちくりと瞬きする。それから急激に、早送りのボタンを押されたみたいに、その顔が急速にしわくちゃで枯れ果てた様へと老け込んでいく。
「そうだ、私は……激励会に椎名がやってきて、独立の計画をすべて潰されて」
「……青木副社長?」
「払えないと思ったんだ、あんな額の賠償金なんて。家を売っても、貯金を出しても、内臓を売り払ったとしても。……だから、私は、……この女を使って、取引を……」
髪を鷲掴みにしたまま、青木副社長は虚ろな瞳をゆっくりと私へ向ける。
現実を写し込んでしまった闇深い深淵の眼差しは、生気のないまま私から逸れて、今度は玲一さんをとらえた。……そのとき、
「この赤いワーゲンの運転手はどちらですかー?」
拡声器を経た男の人の威圧的な大声に、青木副社長と玲一さんが同時に声の方を振り返った。
濃紺のジャケットに黒い帽子――ベストを着た二人の警察官が、居丈高にあたりを見回しながらずかずかと庭へ入り込んでくる。
「ヒッ」
そしてその姿を見た途端、青木副社長は真っ青になった。歯の根が合わずガチガチと音が鳴り、逃げ場を探すように視線が右往左往する。
警察官は玲一さんと青木副社長、そして椅子に縛られた私の姿に気付くと、
「お、お前ら、何やってるんだ!」
と、腰の警棒を取り出そうとした。
瞬間、
「ああああ!!」
副社長は突然大声を上げると、私の座る椅子を両手で突き飛ばした。キャスターがプールサイドを走り、がくんと身体が仰向けになる。
「凛ちゃん!!」
視界いっぱいの秋の星空。
どぼんと耳元で大きな音。
目を見開いた玲一さんの泣き出しそうに引き攣れた顔が無数の泡に消えていく。
冷たい――身体中に突き刺さる水の冷たさ。細かい枯葉や虫の死骸が私を避けるように方々へ逃げていく。ああ、私、プールに突き落とされたんだ。
椅子にくくられた私の身体は夜の水底へ緩やかに沈む。プールの周りを電灯が照らしているせいか、水の中は明るく透き通って見える。
(やばい)
背中できつく縛られた手首は、ちょっとの抵抗じゃ抜けられそうになくて。
(溺死する。……なんとかして拘束を解かないと、このままじゃ本当に死んでしまう!)
今更必死に身体をばたつかせて拘束を外そうともがくけど、私の身体は深い底へとゆっくりゆっくり沈んでいくだけ。
泣き出しそうな思いで見上げた水面はすでに遥か高く、柔らかに揺らぐ水の向こうにはカラフルな灯りと夜空が見える。
(誰か、――助けて!!)
――そのときだった。