初恋カレイドスコープ

 ばんっ、と何かの弾ける音とともに、視界が大きく波打った。唐突に視界の真ん中に現れた、夜空を遮る大きな影。それを中心に円を描くように、水面が大きく揺らいでいく。

 濃紺の夜空を両手で裂いて、色とりどりの光を浴びて……まるで天の川の中のように、あるいは煌びやかな万華鏡のように、輝く水中を必死にかき分ける――私の、好きな人。

 両頬にいっぱいの空気を溜めながら、懸命に、ただまっすぐに、私を見つめて手を伸ばす。玲一さん。思わず名を呼ぼうとして、開いた口から空気が溢れた。飛び出しそうなほど目を見開いて、玲一さんは足をばたつかせる。

 やがて、うんと伸ばした彼の両腕が、やっとのことで私の肩に触れて……かき寄せるように抱きしめられた瞬間、私の胸に途方もない莫大な感情が燃え広がった。ぎゅっと閉じたまぶたの際からはきっと涙が溢れただろう。でも、水の中ではあっという間に周囲に溶けて消えてしまう。

 背中に回った彼の手が、たどたどしい手つきでロープを解く。手首の圧迫感がふっと消えて、両腕が自由になった瞬間、私は無意識に手を伸ばして玲一さんに抱きついた。

 玲一さんも私の身体をぎゅうときつく抱きしめてくれて、私たちはもがくように水面へ向かって立ち上がる。

 そうしてやっとプールの外に顔が出た瞬間、私は必死に口を開けながらありったけの酸素を吸い込んだ。ひゅうひゅうと喉から変な音が鳴って、喉の半ばでわだかまっていた水が口から溢れ出す。

 玲一さんも私と同じくらい苦しそうにむせ返っているのに、私を強く抱きしめたまま必死に背中を叩いてくれた。げほっ、と水をその場に吐き出し、彼は呻くように低く唸る。

「れいいちさんっ」

 彼の肩口に額を押しつけ、ぼろぼろと大粒の涙をこぼして、……ただひたすら夢中になって、彼の背中をかき抱いて。

「凛ちゃん」

 夢に見るほど恋焦がれていた彼の優しい微笑みが、今、また目の前にある。

「ごめんなさい、ごめんなさい! 私っ、……わたし、こんな、」

「俺は、大丈夫……。それより怪我とかしてない!? 痛いところは!?」

「違うんです、全然平気で、……あの、お願いです、これ以上きらいにならないで! 私ほんとうに迷惑ばかりで、役に立たなくて、……でも、どうしても、あきらめられなくて……」

 私の肩を掴んだまま虚をつかれたような顔をする玲一さんに、私はそれしか言葉を知らない子どものように繰り返す。

「やっぱり好きです。好きなんです。……がんばったけど、やめられなかったんですっ」

 ぐちゃぐちゃの顔で鼻をたらしながら泣く私を、玲一さんはただ静かに、ちいさく唇を開けたまま見つめる。それから彼は、ずぶ濡れの頬にひと筋の透明な雫を零し、朝露に花が開くように、表情をほぐして微笑んだ。

「俺もだよ」
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