初恋カレイドスコープ
最終章 これからも恋心
ベッド横のマガジンラックに新聞や雑誌が並んでいる。
若手芸能人とモデルの不倫、政治家の汚職と失言、アイドルのちょっと過激なグラビア……青木副社長の逮捕についても少しだけど触れられていて、やっぱりそこにはあることないことが無責任に書き散らかされている。
世間の興味の移り変わりはいつも目が回るほどに速い。
人の噂も七十五日なんてよく言ったもので、弊社社長代理への陰湿な付き纏いはすっかり鳴りを潜めつつあった。妙な動画やネットニュースはそのほとんどが削除されたし、SNSの炎上の方も気づかないうちに鎮火したらしい。
何もかもが、あるべき日常へと戻っていく。
――そして、私も。
「凛ちゃん」
病室の扉を軽くノックして、私服の玲一さんが入ってくる。ベッドに腰かけ、新品のスマホを鞄へと入れた私を見つめ「元気そうでよかった」と彼は軽く頬を緩める。
「支度も終わったみたいだね。忘れ物はない?」
「はい、これで全部です」
「そっか。じゃあ、行こうか」
衣類ばかりがぱんぱんに詰まった私の鞄を持ちあげて、玲一さんはドアを開けると私の方を振り返った。
あのあとすぐに救急車で運ばれた私と玲一さんは、健康面の検査とともにメンタルのケアも受けることになった。玲一さんは日帰りで終わったけど、私の方は結局一週間も入院することになって……どうやらずっと気を張っていたせいで気が付かなかったのだけど、あの一件は私の心に想像以上の大きな爪痕を残していたらしい。
とはいえ、あまり実感が湧いていないのも事実。短い入院生活は気持ちを切り替える絶好の機会となり、今や私の心身は不思議なほどさっぱりと晴れ渡っている。
それはきっと、玲一さんが毎日お見舞いに来てくれたおかげでもあるのだろう。隣に並んだ彼を見上げ、私は頬の緩みを堪える。
病院のエントランスへ降りると、波留さんが柱に寄りかかって待っていた。彼はいつもどおりの仏頂面を私へ向けて、
「退院おめでとうございます」
と、ちっとも嬉しくなさそうな声で言う。
「ありがとうございます。わざわざすみません、来てもらって」
「いえ。こいつが運転できればよかったんですが、そうもいかないので」
うるせー、と玲一さん。実は玲一さん、あのときプールに飛び込んだ折に運転免許証をどこかへ落としてしまったらしい。
そのことに気づいたのが昨日の夜で、私の退院の日は変えられなくて……結局波留さんに泣きついて、運転手をお願いしたのだとか。