初恋カレイドスコープ
【過激】ベッドの上の喧嘩のような
・第六章~第九章あたりの話です
・一人称凛視点
・過激です(騎乗位)
・番外編『異常性癖』を読了後に読まれるのをおすすめします
*
ちゅ、ちゅ、と唇が鳴る。
甘く食むだけの優しいキスが少しずつ深さを増していき、舌先が歯をこじ開けて私の中へ進んでくる。
互いの粘液をすくいあげながら音を立てて絡み合う舌。自分と相手の境界線がだんだんいびつになっていく。
キスをしながらなんとなく目を開けると、大きな瞳と間近で視線がぶつかり合ってしまった。あ、と裸の肩が跳ねると、玲一さんは心からおかしそうにニィと意地悪く笑う。
もしかして、いつもキスのときこんな風に目を開いていたの? 私の変な顔も見られてたのかな。ああいやだ、恥ずかしい……。
「可愛いよ」
私の心を見透かしたみたいに、玲一さんは上機嫌に言う。
「なにがですか?」
「キスのときの顔。とろとろに溶けて、もうだめ、気持ちいい……って顔してる」
……明確に言葉にされると、なんだかいたたまれなくなってくる。まあ、実際そのとおりなのだけど。
玲一さんはキスが上手だ。私は他の人とキスなんてしたことはないけれど、洋画の激しめのラブシーンが一番イメージに近いと思う。ただ唇を触れ合わせるだけじゃない。舐めて噛んで吸い上げて、そのまま私を食らい尽くしてしまいそうなほど過激で重厚で妖艶なキス。
鼻で浅く息を吸いながら、求められるだけ与えたいと、……あるいは同じくらい求めたいと、ついつい欲を出してしまう。そして私のつたないおねだりを彼は本当に上手に拾って、求めただけのものをありったけぜんぶ与えてくれる。
「っ、ぅ、……あ……」
隠れた場所をかき分けて、彼自身が奥へと押し進んでくる。下腹部に感じる圧力。これに痛みを感じなくなってから一体どれほど経つだろう。息を吐くたびに内側から彼の存在を肉で感じて、ああ、私は彼に制圧されているのだと実感する。
玲一さんは私のおへその下あたりに手を当てて、自分自身が私を侵略するさまを愉しんでいるみたい。緩やかな優しいピストンに合わせ、電流にも似た甘い刺激が、繋がったところから全身に向けてぴりぴりとほとばしっていく。
「……ほんと、イイ顔。動くよ」
「っぁ、あ!」
お腹まで折り曲げられた膝頭が揺さぶられるたびびくびく揺れる。服従を示す犬みたいにお腹を出して横たわる私。開いた両手をベッドに縫いつけ、肉を打つ音を響かせながら、彼は乱暴に腰を穿つ。
私はきつく目をつむり、攻め寄せる快楽を少しでも散らそうと必死に首を横に振るばかり。彼は悶える私の様子を癪に障るほど冷静な目で見下ろし、たまに穏やかな眼差しでフッと口元を緩ませたりする。
(余裕だなっ……)
そんな目で見られたら、ひとりで感じまくっている私がなんだかバカみたいじゃないか。
「そうだ」
勝手に漏れ出る嬌声がだんだんと大きくなってきた頃、突然玲一さんは腰の動きを止めると、快楽半ばで彼自身をずるりと引き抜いてしまった。ぐちゅ、と粘ついた水音がして、下腹部が唐突な物寂しさに疼く。
困惑する私を抱き起し、彼はベッドに腰を下ろすと、
「はい、どーぞ」
と言って、そのまま仰向けに寝転がってしまった。
(ど、どうぞ?)
どーんと大の字になった玲一さんを見下ろし、私は目をぱちくりする。あんまりじろじろ見るものじゃないとわかっているのだけど、どうしても体液に濡れててらてら光るそれに目が行ってしまう……。
「ほら。前に凛ちゃん、『たまには私からしていいですか』って言ってたから」
玲一さんは寝転がったまま私の手を引き寄せる。
「あのとき好きじゃないって言っちゃったの、悪かったなと思ってさ。俺のこと責めてみたかったんでしょ?」
「あ……」
「いつも同じセックスじゃ飽きるしね。いいよ、ほら。上に乗って」
手を引かれるまま玲一さんの腰の上へおずおずと跨る。両手の指をぎゅっと絡めて、玲一さんの綺麗な顔に私の影が覆いかぶさる。
(うわ、うわ、うわ……)
な、なにこれ。すごい色っぽい。まるで私から玲一さんを押し倒してしまったみたい。
ほのかに汗ばんだ肌が電気に照らされ薄っすら光る。柔らかな茶色い髪が首筋や頬に張り付いて、少し顎を引く玲一さんの甘えたような微笑を飾る。
「支えておくから、ゆっくり腰を下ろして。……そう。いきなり座らない方がいいよ、深くまで刺さりすぎるからね」
ごくりとつばを飲み込んで、私は両膝に力を込めた。彼の目を見つめながら、言われるがまま腰を下ろしていく。ゆっくり、ゆっくり……秘所の入り口に触れたそれの熱い感触が、私が身体を沈めるたびに少しずつ中へと飲み込まれていく。
「ぅ、くっ……」
「ははっ、変な感じするでしょ? 一度に全部入れるのがつらかったら、一旦腰引いてもいいんだよ」
「は、い……っ」
これは……確かに私の意思が主体だけど、玲一さんを責めているって感じはあんまりしないなぁ。見下ろすビジョンはすごく背徳的で背筋がぞくぞくしてくるけれど、私の腰を支える手とか、動きをコントロールする言葉とか、結局のところやっぱり私は玲一さんの手のひらの上だ。
「うん、上手。……全部入ったね」
……本当に、いつもより少し奥の方まで入ってるみたい。気を抜くと妙な刺激が足先をぴりりと駆け抜けるものだから、私は下半身に力を入れて苦しくない位置をキープする。
触れ合う面積もいつもより広い。少し身動きするだけで、ぐちゅ、くちゅと水音が響く。繋がるところがべとべとしているのが直接肌で感じられて、自分がどれだけこの人に狂わされていたのかを実感してしまう。
「ど、どうやって動けばいいですか」
「ん? 凛ちゃんの好きにしていいよ。前後に動いて外をこすっても、上下に頑張って奥を突いても」
こ、こするとか突くとか、平気な顔で言うのやめてほしい。玲一さんにとっては普通のことなのかもしれないけど、私にはまだまだ恥ずかしいっていうか、はしたないことをしている意識が抜けきっていないのだから。
玲一さんの手を握りしめ、両膝をぺたんとついたまま、触れ合う腰をゆっくりと前後に揺さぶってみた。……んん、確かに彼が言ったとおり、身体の外の敏感なところが彼の肌に擦りあわされて、じんとした刺激が身体の奥にじわじわとせり上がってくる。
お腹深くに埋め込まれた熱い楔が中でこすれて、自分の指じゃ決して届かないところをやわく刺激する。……気づけば私は夢中になって小さく喘ぎながら腰を揺すっていて、
「……なんか、俺を使って一人エッチしてるみたいだねえ?」
なんてくすくす笑いで、ようやく我に返ったほどだった。
「なっ、ちがっ」
「いや、今のは良い意味でだよ。自分で動いて気持ちよくなってんの、すごくエロいよ。可愛いし」
「でも、あの、そういうんじゃ、……だって、あの、はじめてで」
「わかってるって、そのまま動きな。凛ちゃんが気持ちよさそうにしてるの見せて」
上機嫌に笑いながら彼の指が私の乳首をつまむ。思いの外強い力でぎゅっと軽くねじられて、私は背中を反らせながら「あっ」と甲高い声を上げる。
びくびくと痙攣する腿が、素直な律動を脳に促す。結局私は彼の言いなり、緩やかに腰を前後させながら、ただ与えられる快楽を貪る姿を見せるだけ……
(……いや、待てよ?)
そういえばちょっと前、ネットの記事で偶然読んだんだ。……この、騎乗位のやり方について。
曰く、前後に揺れるタイプの動きは女性には人気なのだけど、男性的にはあまり楽しいものではないのだとか。どちらかというと、上下にしっかりと腰を動かして相手のものを刺激してあげる方が、男性側も気持ちよくって喜ばれる……とかだっけ?
正直うろ覚えではあるけれど、確かそんなことが書いてあった気がする。確かに今だって、私ばかりがあんあん感じて、玲一さんは保育園児のお遊戯会でも見るような顔をしているし。
(……もしかしてこれ、玲一さんとしてはあまり気持ちよくないのかも?)
荒い呼吸の下で私は考える。そもそも玲一さんがこんな風に私に主導権を委ねてくれるなんて、非常に貴重で珍しい機会と言わざるを得ないだろう。どうせならこのチャンスをものにして、二度目、三度目に繋げていきたい。そしてあわよくば、気持ちよさそうに感じる玲一さんの顔が見たい……!
なんて、不純な考えを一旦頭から取っ払い、私は玲一さんの手を離すと両手をベッドに押しつけた。一気に顔が近くなって、玲一さんの綺麗な唇が「キスしたいの?」と甘く私を誘う。
したいよ。したいけどね、今一番したいのはそれじゃない。私は自分から玲一さんにちゅっと触れるだけのキスをして、それから両膝を順番にベッドの上に立てていく。
「……お?」
うーわ、恥ずかしい。思いっきりがに股だ。繋がっているところが丸見えで、思わず手でそっと隠す。
玲一さんはにやにやしながら、
「何が始まるのかなー?」
なんて茶化すように笑っている。
どうせわかっているんでしょ、と心の中で毒づきながら、だったらなおのこと羞恥はいらないと私は思い切り腰を持ち上げた。
「んあっ!」
「っ!」
どちゅん! と腰を叩きつけるとともに、自分の口から必然みたいにあられもない声がほとばしった。膝頭がぶるぶる笑い、身体が快楽の余韻に震える。
気持ちいい……けど、たぶん書いてあったのはこれじゃない。私はうっすらと目を開けて、もう一度そろそろと腰を上げる。
「うわっ」
同じリズムで、同じ角度で。
たん、たんと腰を動かし、着々と彼に刺激を与える。自分の中で出入りを繰り返す熱く濡れた彼自身。自分の快楽を追い求めそうになるのを堪え、ひたすら機械的な動きに徹する。
つま先立ちの足が痛い。振りっぱなしの腰がつらい。
玲一さん……いつもこんな大変な動きをやってたんだね。ひっくり返って喘ぐばかりの自分がなんだか申し訳なくなってきた。
「ちょっと、どこで覚えたんだよ、そんなのっ……!」
ふと気づいて目線を降ろすと、なんだか見たことがないくらい焦る玲一さんと目が合った。指先が軽くシーツを握り、頬はかすかに上気している。困ったように、戸惑うように、大きな瞳が熱に濡れていて。
「……玲一さん、きもちいいですか?」
腰の律動を止めないままに、少し微笑んで私は訊ねる。
玲一さんは一瞬悔しげに表情を歪めたけど、すぐに片手で顔を覆うと、
「これだから運動部は嫌なんだっ」
と、上ずった声で憎々しげに言った。
その反応がなんだかおかしくて、私は笑いながら腰を動かす。ずんずん来る刺激は私も気持ちいい。でもそれ以上に、私の動きで感じてくれる彼を見る方が興奮する。
(もっと気持ちよくしてあげたい。玲一さんの可愛い顔を見たい)
私が腰を振るのに合わせて垂れた毛先がゆらゆら揺れる。
ぎゅっとこぶしを握り締めて、何かに耐えるように歯を食いしばる彼。たまに漏れ出る熱い吐息がいつにも増して色っぽくて、私はもう嬉しくなってどんどん動きを強めてしまう。
やがて、
「あっ」
と、小さな声が弾けるように漏れ聞こえて、私は目を丸くするとそのまま動きを止めてしまった。
腕の下に見える玲一さんの瞳が、驚いたようにまばたきしている。彼は私を見つめたまま、
「……今の、俺の声?」
と、純粋な戸惑いを浮かべて言った。
可愛くてとろとろで、甘えたようなちいさな声。……私の声じゃない、と、いうことは……?
「……いやいやいや、ない! なし! 今のなし!!」
「ええっ!?」
玲一さんは乱暴に起き上がると、私の身体をぐいと突き飛ばしてそのままベッドに押し倒した。私の両足をお腹につくほど折り曲げて、彼はせかせかと私に覆いかぶさる。
「騎乗位終わり! 今度はこっちが責める番です」
「えっ、ちょっと、もう少しやりたかったんですけどっ」
「却下! こないだまで処女だった女に俺が喘がされてたまるかよ!」
なにそのプライド!? こないだまで処女だった女をここまで育てたのはあなたでしょ!?
言いたいことは山ほどあるけど、私を組み敷く玲一さんの目が思ったより本気で、私はぐっとつばを飲み込むとそのまま口をつぐんでしまう。どうやら、私……彼に変なスイッチを入れてしまったのかも?
「さっきの記憶が消し飛ぶくらいイかせまくってやるからな」
据わり切った両目で私を見下ろし、玲一さんは悪人丸出しの逆切れ面でニヤリと笑う。
なんてめんどくさい照れ隠し。私に可愛い声を出させられるの、そんなに恥ずかしかったのかな。
くすっと笑みを噛み殺した私に、玲一さんはばつが悪そうに唇をへの字に曲げると、「ああもう」と短く吐き捨てて噛みつくようにキスをした。
おわり
・一人称凛視点
・過激です(騎乗位)
・番外編『異常性癖』を読了後に読まれるのをおすすめします
*
ちゅ、ちゅ、と唇が鳴る。
甘く食むだけの優しいキスが少しずつ深さを増していき、舌先が歯をこじ開けて私の中へ進んでくる。
互いの粘液をすくいあげながら音を立てて絡み合う舌。自分と相手の境界線がだんだんいびつになっていく。
キスをしながらなんとなく目を開けると、大きな瞳と間近で視線がぶつかり合ってしまった。あ、と裸の肩が跳ねると、玲一さんは心からおかしそうにニィと意地悪く笑う。
もしかして、いつもキスのときこんな風に目を開いていたの? 私の変な顔も見られてたのかな。ああいやだ、恥ずかしい……。
「可愛いよ」
私の心を見透かしたみたいに、玲一さんは上機嫌に言う。
「なにがですか?」
「キスのときの顔。とろとろに溶けて、もうだめ、気持ちいい……って顔してる」
……明確に言葉にされると、なんだかいたたまれなくなってくる。まあ、実際そのとおりなのだけど。
玲一さんはキスが上手だ。私は他の人とキスなんてしたことはないけれど、洋画の激しめのラブシーンが一番イメージに近いと思う。ただ唇を触れ合わせるだけじゃない。舐めて噛んで吸い上げて、そのまま私を食らい尽くしてしまいそうなほど過激で重厚で妖艶なキス。
鼻で浅く息を吸いながら、求められるだけ与えたいと、……あるいは同じくらい求めたいと、ついつい欲を出してしまう。そして私のつたないおねだりを彼は本当に上手に拾って、求めただけのものをありったけぜんぶ与えてくれる。
「っ、ぅ、……あ……」
隠れた場所をかき分けて、彼自身が奥へと押し進んでくる。下腹部に感じる圧力。これに痛みを感じなくなってから一体どれほど経つだろう。息を吐くたびに内側から彼の存在を肉で感じて、ああ、私は彼に制圧されているのだと実感する。
玲一さんは私のおへその下あたりに手を当てて、自分自身が私を侵略するさまを愉しんでいるみたい。緩やかな優しいピストンに合わせ、電流にも似た甘い刺激が、繋がったところから全身に向けてぴりぴりとほとばしっていく。
「……ほんと、イイ顔。動くよ」
「っぁ、あ!」
お腹まで折り曲げられた膝頭が揺さぶられるたびびくびく揺れる。服従を示す犬みたいにお腹を出して横たわる私。開いた両手をベッドに縫いつけ、肉を打つ音を響かせながら、彼は乱暴に腰を穿つ。
私はきつく目をつむり、攻め寄せる快楽を少しでも散らそうと必死に首を横に振るばかり。彼は悶える私の様子を癪に障るほど冷静な目で見下ろし、たまに穏やかな眼差しでフッと口元を緩ませたりする。
(余裕だなっ……)
そんな目で見られたら、ひとりで感じまくっている私がなんだかバカみたいじゃないか。
「そうだ」
勝手に漏れ出る嬌声がだんだんと大きくなってきた頃、突然玲一さんは腰の動きを止めると、快楽半ばで彼自身をずるりと引き抜いてしまった。ぐちゅ、と粘ついた水音がして、下腹部が唐突な物寂しさに疼く。
困惑する私を抱き起し、彼はベッドに腰を下ろすと、
「はい、どーぞ」
と言って、そのまま仰向けに寝転がってしまった。
(ど、どうぞ?)
どーんと大の字になった玲一さんを見下ろし、私は目をぱちくりする。あんまりじろじろ見るものじゃないとわかっているのだけど、どうしても体液に濡れててらてら光るそれに目が行ってしまう……。
「ほら。前に凛ちゃん、『たまには私からしていいですか』って言ってたから」
玲一さんは寝転がったまま私の手を引き寄せる。
「あのとき好きじゃないって言っちゃったの、悪かったなと思ってさ。俺のこと責めてみたかったんでしょ?」
「あ……」
「いつも同じセックスじゃ飽きるしね。いいよ、ほら。上に乗って」
手を引かれるまま玲一さんの腰の上へおずおずと跨る。両手の指をぎゅっと絡めて、玲一さんの綺麗な顔に私の影が覆いかぶさる。
(うわ、うわ、うわ……)
な、なにこれ。すごい色っぽい。まるで私から玲一さんを押し倒してしまったみたい。
ほのかに汗ばんだ肌が電気に照らされ薄っすら光る。柔らかな茶色い髪が首筋や頬に張り付いて、少し顎を引く玲一さんの甘えたような微笑を飾る。
「支えておくから、ゆっくり腰を下ろして。……そう。いきなり座らない方がいいよ、深くまで刺さりすぎるからね」
ごくりとつばを飲み込んで、私は両膝に力を込めた。彼の目を見つめながら、言われるがまま腰を下ろしていく。ゆっくり、ゆっくり……秘所の入り口に触れたそれの熱い感触が、私が身体を沈めるたびに少しずつ中へと飲み込まれていく。
「ぅ、くっ……」
「ははっ、変な感じするでしょ? 一度に全部入れるのがつらかったら、一旦腰引いてもいいんだよ」
「は、い……っ」
これは……確かに私の意思が主体だけど、玲一さんを責めているって感じはあんまりしないなぁ。見下ろすビジョンはすごく背徳的で背筋がぞくぞくしてくるけれど、私の腰を支える手とか、動きをコントロールする言葉とか、結局のところやっぱり私は玲一さんの手のひらの上だ。
「うん、上手。……全部入ったね」
……本当に、いつもより少し奥の方まで入ってるみたい。気を抜くと妙な刺激が足先をぴりりと駆け抜けるものだから、私は下半身に力を入れて苦しくない位置をキープする。
触れ合う面積もいつもより広い。少し身動きするだけで、ぐちゅ、くちゅと水音が響く。繋がるところがべとべとしているのが直接肌で感じられて、自分がどれだけこの人に狂わされていたのかを実感してしまう。
「ど、どうやって動けばいいですか」
「ん? 凛ちゃんの好きにしていいよ。前後に動いて外をこすっても、上下に頑張って奥を突いても」
こ、こするとか突くとか、平気な顔で言うのやめてほしい。玲一さんにとっては普通のことなのかもしれないけど、私にはまだまだ恥ずかしいっていうか、はしたないことをしている意識が抜けきっていないのだから。
玲一さんの手を握りしめ、両膝をぺたんとついたまま、触れ合う腰をゆっくりと前後に揺さぶってみた。……んん、確かに彼が言ったとおり、身体の外の敏感なところが彼の肌に擦りあわされて、じんとした刺激が身体の奥にじわじわとせり上がってくる。
お腹深くに埋め込まれた熱い楔が中でこすれて、自分の指じゃ決して届かないところをやわく刺激する。……気づけば私は夢中になって小さく喘ぎながら腰を揺すっていて、
「……なんか、俺を使って一人エッチしてるみたいだねえ?」
なんてくすくす笑いで、ようやく我に返ったほどだった。
「なっ、ちがっ」
「いや、今のは良い意味でだよ。自分で動いて気持ちよくなってんの、すごくエロいよ。可愛いし」
「でも、あの、そういうんじゃ、……だって、あの、はじめてで」
「わかってるって、そのまま動きな。凛ちゃんが気持ちよさそうにしてるの見せて」
上機嫌に笑いながら彼の指が私の乳首をつまむ。思いの外強い力でぎゅっと軽くねじられて、私は背中を反らせながら「あっ」と甲高い声を上げる。
びくびくと痙攣する腿が、素直な律動を脳に促す。結局私は彼の言いなり、緩やかに腰を前後させながら、ただ与えられる快楽を貪る姿を見せるだけ……
(……いや、待てよ?)
そういえばちょっと前、ネットの記事で偶然読んだんだ。……この、騎乗位のやり方について。
曰く、前後に揺れるタイプの動きは女性には人気なのだけど、男性的にはあまり楽しいものではないのだとか。どちらかというと、上下にしっかりと腰を動かして相手のものを刺激してあげる方が、男性側も気持ちよくって喜ばれる……とかだっけ?
正直うろ覚えではあるけれど、確かそんなことが書いてあった気がする。確かに今だって、私ばかりがあんあん感じて、玲一さんは保育園児のお遊戯会でも見るような顔をしているし。
(……もしかしてこれ、玲一さんとしてはあまり気持ちよくないのかも?)
荒い呼吸の下で私は考える。そもそも玲一さんがこんな風に私に主導権を委ねてくれるなんて、非常に貴重で珍しい機会と言わざるを得ないだろう。どうせならこのチャンスをものにして、二度目、三度目に繋げていきたい。そしてあわよくば、気持ちよさそうに感じる玲一さんの顔が見たい……!
なんて、不純な考えを一旦頭から取っ払い、私は玲一さんの手を離すと両手をベッドに押しつけた。一気に顔が近くなって、玲一さんの綺麗な唇が「キスしたいの?」と甘く私を誘う。
したいよ。したいけどね、今一番したいのはそれじゃない。私は自分から玲一さんにちゅっと触れるだけのキスをして、それから両膝を順番にベッドの上に立てていく。
「……お?」
うーわ、恥ずかしい。思いっきりがに股だ。繋がっているところが丸見えで、思わず手でそっと隠す。
玲一さんはにやにやしながら、
「何が始まるのかなー?」
なんて茶化すように笑っている。
どうせわかっているんでしょ、と心の中で毒づきながら、だったらなおのこと羞恥はいらないと私は思い切り腰を持ち上げた。
「んあっ!」
「っ!」
どちゅん! と腰を叩きつけるとともに、自分の口から必然みたいにあられもない声がほとばしった。膝頭がぶるぶる笑い、身体が快楽の余韻に震える。
気持ちいい……けど、たぶん書いてあったのはこれじゃない。私はうっすらと目を開けて、もう一度そろそろと腰を上げる。
「うわっ」
同じリズムで、同じ角度で。
たん、たんと腰を動かし、着々と彼に刺激を与える。自分の中で出入りを繰り返す熱く濡れた彼自身。自分の快楽を追い求めそうになるのを堪え、ひたすら機械的な動きに徹する。
つま先立ちの足が痛い。振りっぱなしの腰がつらい。
玲一さん……いつもこんな大変な動きをやってたんだね。ひっくり返って喘ぐばかりの自分がなんだか申し訳なくなってきた。
「ちょっと、どこで覚えたんだよ、そんなのっ……!」
ふと気づいて目線を降ろすと、なんだか見たことがないくらい焦る玲一さんと目が合った。指先が軽くシーツを握り、頬はかすかに上気している。困ったように、戸惑うように、大きな瞳が熱に濡れていて。
「……玲一さん、きもちいいですか?」
腰の律動を止めないままに、少し微笑んで私は訊ねる。
玲一さんは一瞬悔しげに表情を歪めたけど、すぐに片手で顔を覆うと、
「これだから運動部は嫌なんだっ」
と、上ずった声で憎々しげに言った。
その反応がなんだかおかしくて、私は笑いながら腰を動かす。ずんずん来る刺激は私も気持ちいい。でもそれ以上に、私の動きで感じてくれる彼を見る方が興奮する。
(もっと気持ちよくしてあげたい。玲一さんの可愛い顔を見たい)
私が腰を振るのに合わせて垂れた毛先がゆらゆら揺れる。
ぎゅっとこぶしを握り締めて、何かに耐えるように歯を食いしばる彼。たまに漏れ出る熱い吐息がいつにも増して色っぽくて、私はもう嬉しくなってどんどん動きを強めてしまう。
やがて、
「あっ」
と、小さな声が弾けるように漏れ聞こえて、私は目を丸くするとそのまま動きを止めてしまった。
腕の下に見える玲一さんの瞳が、驚いたようにまばたきしている。彼は私を見つめたまま、
「……今の、俺の声?」
と、純粋な戸惑いを浮かべて言った。
可愛くてとろとろで、甘えたようなちいさな声。……私の声じゃない、と、いうことは……?
「……いやいやいや、ない! なし! 今のなし!!」
「ええっ!?」
玲一さんは乱暴に起き上がると、私の身体をぐいと突き飛ばしてそのままベッドに押し倒した。私の両足をお腹につくほど折り曲げて、彼はせかせかと私に覆いかぶさる。
「騎乗位終わり! 今度はこっちが責める番です」
「えっ、ちょっと、もう少しやりたかったんですけどっ」
「却下! こないだまで処女だった女に俺が喘がされてたまるかよ!」
なにそのプライド!? こないだまで処女だった女をここまで育てたのはあなたでしょ!?
言いたいことは山ほどあるけど、私を組み敷く玲一さんの目が思ったより本気で、私はぐっとつばを飲み込むとそのまま口をつぐんでしまう。どうやら、私……彼に変なスイッチを入れてしまったのかも?
「さっきの記憶が消し飛ぶくらいイかせまくってやるからな」
据わり切った両目で私を見下ろし、玲一さんは悪人丸出しの逆切れ面でニヤリと笑う。
なんてめんどくさい照れ隠し。私に可愛い声を出させられるの、そんなに恥ずかしかったのかな。
くすっと笑みを噛み殺した私に、玲一さんはばつが悪そうに唇をへの字に曲げると、「ああもう」と短く吐き捨てて噛みつくようにキスをした。
おわり