初恋カレイドスコープ
「いやあ玲一くん、大きくなったね! 初めて会ったときはこーんなちいちゃくて可愛かったのに!」
「恥ずかしいなぁ、いつの話をされているんですか? 僕ももう二十七ですよ」
「そうかそうか、驚いたなあ。まったく、年を取ると時間が経つのがあっという間になって困る。……ほら、飲みなさい! そちらの君も」
なみなみと注がれるこちらの日本酒、いったい一本おいくらなのだろう。
都内の高級料亭の一室で私も日本酒をご馳走になる。ぐい、と一口であおる社長代理の隣に座り、私は仕草だけは上品に、でも勢いよくお猪口を空にする。
「おっ、いいね! 見ていて気持ちいい飲みっぷりだ」
お腹にずんと来る日本酒の熱に少しめまいを覚えながら、私は満面の営業スマイルで「ありがとうございます」と微笑んだ。ああ、重い。日本酒はきつい。でもまだまだ宴席は序の口だ。
HMCの社長さんは、社長代理のお父様のお友達なのだという。今回の酒席は社長代理の就任をお祝いするという名目で、お酒大好きな社長さんの方から誘ってきたものらしい。
賑やかにお酒を飲むのが好きな人だから一人で行くのは気が引けたんだと、ぼやく社長代理の横顔は年相応の困り顔で。それを見たとき私の胸には奇妙な嬉しさが込み上げてきて「私が盛り上げて見せます」なんて啖呵を切ってしまったんだ。
「でも、一華くんが長期休業とはね。珍しいこともあるものだ。理由は……教えてくれないんだろう?」
「すみません、僕も姉から固く口止めされていまして。うっかりバラしたらもう、どんなお仕置きが待っているか」
「ははは! それじゃあ聞き出すわけにもいかないね。一華くんを怒らせたら……ああほら、空になっているよ。注いであげよう。そっちの君は甘いカクテルがいいかな?」
空になった私のグラスを見て、相手の社長さんがメニューを渡してくれる。
腕を伸ばしてそれを受け取った社長代理は、開いたメニューを私に見せるふりをして、
「ノンアルでもいいよ」
と小さな声で囁いた。
耳元で聞く社長代理の声に、いつぞやの思い出が蘇って急に身体が熱くなる。いけない、酔いが回ってきたかな。いつもなら数杯飲まされたくらいでこんなにくらくらしないのだけど。
「そうそう、私のおすすめはこの梅酒だよ! 奄美大島の酒造が手掛けたものでね、どんな女性に勧めても絶対に美味しいと言ってくれるんだ」