初恋カレイドスコープ
「『次のキングはこの男! イケメン高収入ハイスペ男子人気ランキングトップ10』?」
しっかり最後まで口に出してから、社長代理はめいっぱい嫌そうな顔をする。それはもう、この人こんな顔できたんだってくらいの変顔っぷりで、一緒に週刊誌を覗いていた秘書の先輩が吹き出してしまうほど。
「コンビニで偶然見つけたんです。ほら、ここに社長代理の名前が」
「うわ、マジかよ。しかもこの写真、大学時代のやつだし……いや年収こんなないって。一華ちゃんが俺にこんなにくれるわけないじゃん、冷静に考えろよ」
社長代理はぶつぶつぼやきながら記事を睨むように読んでいる。『姉が育てた会社を譲り受け、船出を始めた若き経営者。大学時代には起業の経験もあり、今後の成長性も◎。甘いマスクの大きな瞳は見つめられるだけで女性を虜に』……。
(ああ、正直ちょっとわかる)
社長代理ってカラコンを疑いたくなるほど瞳が大きいんだ。しかも黒目がちで、ぱっちり二重で、絵に描いたように可愛い目。瞳に映る自分の顔が鏡みたいによく見えて、彼の目に見つめられるともうどうしたらいいかわからなくなってしまう。
「次のキングってなんの話なの?」
「婚活バラエティ番組ですよ。ハイスペックな男性を巡って、同じくハイスペックな美女たちがドレスで乱闘するんです」
「……それ、見て楽しいの?」
「面白いですよ、リアリティショーなので台本はあるでしょうけど。最終的に生き残った女性が、見事キングと結ばれてハッピーエンドになるんですよ」
「あ、そ。とりあえず俺は死んでも見ないし、出ない番組だってことがわかった」
記事には次期キング候補として、社長代理を含めた十人の男性の顔写真とプロフィールがまとめられている。確かに皆高収入なイケメンばかりのようだけど、この中なら社長代理が一番かっこいいな。
ああいや、私はこんなくだらないお喋りのためにこの雑誌を買ってきたわけじゃない。
「それで社長代理、こちらの記事について、掲載許可は……」
「出してるわけないでしょ。無断だよ」
やっぱり。
絶対そうだろうと思ったんだ。こんな俗っぽい雑誌にインタビューもなしで掲載なんて、社長代理の性格を考えれば許可しないに決まっている。
「抗議状を送りましょうか」
「そうだね。放っておいてもいいけど、舐められるのは好きじゃないし」
雑誌から目を離した社長代理は、斜め後ろを振り返る。
「鮫島、頼んだよ」
端的な社長代理の言葉に、皆の輪から外れて仕事をしていた鮫島先輩が、綺麗な顔に柔らかな笑みを浮かべて「はい」と返事をした。