初恋カレイドスコープ

 年季の入ったお店の入り口で強烈に漂う豚骨の香り。

 きゅうとお腹を鳴らした私を見て、社長代理はまたくつくつ笑う。恥ずかしい。でも、あまりにも私の好みにストライクなラーメン屋さんで、本音を言えばなりふり構わず貪り食べたいほどの気分だ。

「こちらのお店には、よく来られるんですか?」

「そうだね、わりと。一人で来ることも多いし、友達誘って来たこともあるよ」

 狭いカウンターに並んで座る。他のお客さんは仕事帰りのサラリーマンがほとんどだけど、中にはちらほらと私たちみたいな男女の姿もあるようだ。

 質素なメニューに選択肢は少なく、私は社長代理と同じ定番の豚骨ラーメンを注文する。社長代理の麺は大盛。あいよと不愛想に返事をして、エプロン姿の店主さんが仏頂面で厨房へ向かう。

「しかし、正直意外だったな。どこでも奢ってやるつもりだったけど、まさかラーメンとはね」

「すみません……その、お洒落なお店とか、あんまり知らなくて」

「いいと思うよ、変に気取ってよくわからない店をリクエストするより。俺としてはありがたかったし、こっちのほうがずっと楽しい」

 なんてことない些細な一言に、あっという間に心が凪いでいく。よかった、本音で正解だったんだ。そう思うと、なんだか二人の相性も良いような気がして少し気分が高揚してしまう。

「あのさ、言いたくないなら言わなくてもいいんだけど」

 横目でちらと私を見ながら、社長代理は声を落として言う。

「営業課の頃の同僚と、やっぱり何かあったんだろ? あの、同い年くらいの女と」

 ……愛菜のことだ。あんなところで大声で喋っていたら、社長代理だって気づくよね。

 具体的に彼女との間に何かが起きたわけではないけど、しいていうなら積もり積もったものが爆発した結果だろうか。私はできるだけ暗くならないよう、言葉を選びながら話す。

「彼女は私の同期で……まあ、ライバルみたいな存在だったんです。一緒に営業の仕事を頑張って、いつか秘書になろうって話してて」

「ああ……」

「それでその、私が先に秘書になったものだから、ちょっと今関係がこじれてしまっているんですよね。他にも理由は色々あるとは思うんですけど」

 独身同盟のことについては、口にするのがちょっと恥ずかしい。それに、今となっては愛菜があそこで旅行をキャンセルしてくれたからこそ、私はこうして社長代理を好きになれたとも思っている。

 そういう意味では、ほんの少しだけ愛菜に感謝もしているんだ。本人に伝えると嫌味になるから絶対言わないつもりだけど。

「私が口止め料として秘書課に異動させてもらったと知ったら、たぶん彼女は今以上に私を敵視すると思うんですよね」

 なんて、私が苦笑いを浮かべながら言ったとき、
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