初恋カレイドスコープ
相変わらず手慣れた様子の玲一さんを追って、小綺麗なホテルの玄関をくぐる。この手のホテルは二回目だけど、意識があるまま来るのは初だ。
すりガラスで顔を隠したフロントから鍵を受け取り、狭いエレベーターに乗って指定された階へと進む。お互い無言。いつもの調子で明るく話しかけてくれればいいのに、玲一さんはエレベーターのモニターの数字を眺めるばかりで何も言わない。
どことなく気まずい雰囲気の中でエレベーターは動きを止め、私たちはひと気のない廊下を進んでドアを開けた。整頓された部屋の中は特別おかしなものはないけど、やっぱり真ん中に鎮座している大きなベッドに目が行ってしまう。
(結局下着を確認する暇なかったな)
そわそわしながらブラウスの襟を軽く指で引っ張っていると、
「凛ちゃん」
と、優しく肩を叩かれた。
「はい?」
普段通りに私が振り返ろうとした刹那、突然ぐっと顎を持ち上げられ、唇に唇が重ねられる。
ン、と漏れるくぐもった声。よろけた身体は壁へ追い詰められて、覆いかぶさるように深い深いキスが始まる。当然唇を閉じる暇もなく、熱い舌先が隙間から入り込み、私の口内を我が物顔で蹂躙する。
「ん、ん……っ、は、……」
アルコールの残った唾液を掬い、上顎の内側をなぞりあげられる。くちゅ、ぐちゅと、粘ついた水音が頭の中で反響する。
くらくらする中で薄っすら目を開けると、どこか恍惚とした玲一さんの甘い瞳と目が合った。まつ毛が触れるほど間近の視線はあだっぽい笑みにからめとられて、私は魔法にでもかけられたみたいにうっとりと目を閉じてしまう。
顎を抑えていた指が私の髪を優しく撫でる。そのままこめかみを、耳元を、頬を、そして首筋をやわくくすぐる。鎖骨の出っぱりをつぅと伝って、軽く肩に触れたかと思うと、ゆっくりと後ろへ回った手のひらが力の抜けた腰を支える。
ふぅっと鼻で息をしながら、あふれた唾液を唇がすする。わざと淫靡な音を鳴らしながら、彼の舌は指先みたいに器用に私を翻弄する。
(きもちいい)
吸ってなぞってねぶる舌先を、もっととねだってしまうほど。
「……あの後、他の男と寝たことは?」
低い声に訊ねられ、私はぼんやりした意識の中でただ小さくかぶりを振る。
熱い吐息が耳元にかかり、喉を鳴らすような笑い声が聞こえた後、
「ベッドに行こうか」
と言って、指と指とが静かに絡んだ。