初恋カレイドスコープ
突っ張った足から力が抜けるとともに、汗だくの背中がシーツに沈んだ。
はっ、と軽い笑い声が、どこか遠くから聞こえてくる。ぼやけた視界の真っ白な天井に、茶色いふわふわしたものが映る。これは……あ、玲一さんか。
「どうですか? 初めてイったご感想は」
……そんなのすぐに言えるわけがない。素裸でジェットコースターに乗せられたような感覚。高いところまで一気に上り詰めて、そのまま急激に落下していく。まだ頭がふわふわしていてうまく呂律が回らない。
「……すごかった、です」
やっとのことでそれだけ言うと、玲一さんは満足そうに目を細めた。汗に濡れた髪をぐりぐりと撫でられ、軽く額にキスされる。
「放心状態のとこ悪いけど、ちょっとだけ身体貸してね」
「え……? あ、ああっ!?」
乱暴に腰を掴まれてがつがつと深く穿たれる。終わったばかりの敏感なところに無遠慮に強い刺激を与えられ、全身からぶわっと熱い汗が吹き出していく。背中が痛むほどにのけぞり、開きっぱなしの口からあられもない声が漏れる。
そうしてやがて一番奥の深いところをえぐられたと思うと、熱い吐息をちいさく吐いて玲一さんの動きが止まった。どくどくと、お腹の中で熱が波打つ気配がわかる。
私の中から彼が抜けていくのを感じながら、汗と涙でぼやけた視界で私はホテルの照明を見上げた。後ろめたさを遥かに凌駕するすさまじい快感と充足感。あれ、私って本当はコレ目当てで彼のセフレになったんだっけ……と、うっかり勘違いしてしまいそうなほど。
「あっつ……」
私の隣にごろんと横たわり、玲一さんも濡れた前髪をかきあげる。少し疲れた横顔が色っぽくて、ついじろじろと見つめてしまう。
「どうしたの? ……まだ足りなかった?」
「えっ? あ、い、いえ、そうじゃなくて」
指先でシーツを握りながら、私は恥じ入るように俯く。
「玲一さんが、とても……綺麗だと思って」
玲一さんはちょっと目を見開き、それから軽く頬を緩ませると、
「俺の顔、好き?」
と言って、私の手を取り、自分の頬へと触れさせた。
私の指が彼に導かれ、彼の顔のパーツをひとつひとつなぞる。滑らかですべすべの素肌の感触が、極上な布地に触れているみたいで心地よい。
玲一さんは私の手のひらを外から包み込むように握り、そのまま無防備な手首へ静かに唇を押し当てる。そうしながら、瞳だけはからかうように私の顔色を伺ってくるのだから、私はもう素の自分のまま頬を赤く染める他ない。
「凛ちゃんは素直だね」
どこか憐れむように玲一さんは言う。
「そんなんだから俺みたいなのに引っかかっちゃうんだよ」
「引っかかったつもりはないんですけど……本当に、優しい人だと思っただけで」
「そこだよ。そうやってすぐ『私を助けてくれた人だから優しいんだ』って思い込む。俺に言わせれば凛ちゃんはちょっと性善説に偏りすぎ。ちょろすぎて詐欺に遭わないか心配になるレベルだね」